ニュース

サントリー、ウイスキー山崎/角瓶など「美味品質」の取り組みを解説

2024年10月8日 実施

サントリーウイスキー「美味品質」の取り組み」説明会

 サントリーは「角ハイボールの日」である10月8日に、「サントリーウイスキー『美味品質』の取り組み」についての説明会を実施した。

 説明会ではまずサントリー 常務執行役員 スピリッツ本部長 森本昌紀氏が登場。2024年1月~9月は同社ウイスキー出荷金額が対前年比111%で推移しており、ハイボール缶も104%と引き続き伸長していることを説明した。

サントリー株式会社 常務執行役員 スピリッツ本部長 森本昌紀氏

 日本製ウイスキー全体の市場も伸長しており、世界5大ウイスキーのシェアを見ると2019年の11%から2023年の19%に大きく拡大。蒸溜所数は2014年比で約8倍に増加している。

ジャパニーズウイスキーの売り上げは拡大

 こうした近年の流れを受けてサントリーは2024年4月に「ジャパニーズウイスキー」の基準を定義。「日本国内で3年以上熟成させたモルト・グレーンウイスキー」のみ使用した商品をジャパニーズウイスキーと明文化し、明確な基準で表示できるようになった。

ジャパニーズウイスキーの基準を定義

 そして、2024年9月には世界的酒類コンペティション「ISC(International Spirits Challenge)」では、「山崎12年」が全部門での最高賞「シュプリーム チャンピオン スピリット」を受賞。また、ジャパニーズブレンデッドウイスキー(ノンエイジ)部門では2000円以下の商品として唯一「角瓶」が受賞するなど、高い評価を受けている。

「ISC(International Spirits Challenge)」で最高賞「シュプリーム チャンピオン スピリット」を受賞

 サントリーのウイスキーは創業者鳥井信治郎によって1923年に建設に着手した山崎蒸溜所から始まり、6年をかけて初の本格国産ウイスキー通称「白札」を発売した。

 ただ、この白札は当時の日本人の味覚に合わなかったため、「香りだけでなく飲んでもうまい、味わうに足るウイスキーをつくる」をコンセプトにさらなる試行錯誤を繰り返し、1937年10月8日にスコッチに負けない日本独自の味わいをもつウイスキーとして「角瓶」が誕生した。

「角瓶」誕生の背景

 角瓶のデザインは寿屋チーフデザイナー井上木它が薩摩切子の香水瓶に注目し、長寿のシンボルである亀甲文様をボトルデザインに取り入れたもので、ウイスキーの琥珀色を美しく反射する日本らしさにこだわったデザインに仕上がっている。

薩摩切子から着想したボトルデザイン

 続いてサントリー ブレンダー室長 明星嘉夫氏が登場。具体的なウイスキー作りについての解説を行なった。

サントリー株式会社 ブレンダー室長 明星嘉夫氏

 ウイスキーは原料に麦芽を使うこと、発酵させるところまではビールと同じで、蒸留するところは焼酎と共通しているが、数年から数十年熟成させる工程が必要になってくるところが一番の違いとなっている。言い換えると「ウイスキーは樽で熟成させる酒」ということができる。

ウイスキー製造の流れ

 熟成して美味しくなる品質のことを同社では「熟成・美味品質」と呼び、蒸留直後であっても美味が高く、熟成を長い時間重ねるにつれさらに美味が高まっていく。そのようなウイスキーを目指している。

「熟成・美味品質」を重要視している

 サントリーは創業以来100年以上にわたり「熟成・美味品質」にこだわり続け、スコットランドで学んだウイスキー作りを日本に持ち込むため、いかに日本人の味覚にあったウイスキーを作れるかを絶えず考えてきた。そのため徹底した「つくり込み」と「つくり分け」が必要で、それによって「熟成・美味品質」を追求し続けている。

 さまざまな原酒を持っていれば同じ味の再現や違った風味の設計が可能で、多彩な原酒が存在することがブレンドには有利に働く。また、個々の原酒の品質が高いことも重要で、これが「つくり込み」の部分となっている。そして多彩さには「つくり分け」が必要となる。

原酒を絵の具に例え、作り込まれたさまざまな原酒から多様なブレンドのつくり分けを行なっている

 例えば「原料・原料加工」の工程では、原料は必ず現物を見て確認している。外部から調達する原料は昨今の物流の混乱などにより計画通りに入手できるとは限らず、スペックや状態などが変動するリスクがある。そのため大麦であれば水を染み込ませて成長具合を測定したり、酵母であれば顕微鏡を使って状態を細部まで確認。原料が狙いとする品質のウイスキーになるのかという点を人の手でこまやかに管理している。

製造工程におけるさまざまなつくり込み
原料段階で厳しいチェックを実施

 仕込み工程では、麦汁を得る際攪拌機でかき混ぜる工程があるが、あまりかき混ぜ過ぎると濾過する麦の層が壊れてしまって麦汁が濁ってしまう。サントリーではその麦汁が濁らないようにやさしくていねいに濾過し、濁りのない“清澄麦汁”を取るようにしている。清澄麦汁の方がエステル成分が多くリッチで華やかな香りと酒質になる。

仕込み段階ではていねいに濾過し華やかな香りが出るようにする

 また、発酵工程で用いる酵母には2種類があり、1つはウイスキー用、もう1つはビール用で、スコッチウイスキーでは伝統的に2つの酵母を併用していたが、最近はウイスキー酵母のみを使用する蒸溜所が多い。しかしサントリーではビール酵母の併用により硫黄化合成分により香味のボディ感が増加することからビール酵母の併用を続けている。

 続く蒸留工程では直火蒸留を実施しており、釜を加熱する炉の温度は1000℃を超える状態を保っている。この非常に高い温度で蒸留を行なうことにより、香りの厚みが増しコクがあり力強い味わいのニューポットになる。

 貯蔵工程では内部環境の状態を逐次確認し、環境管理を徹底。また、外部から調達する樽は一つ一つていねいに確認を行ない品質管理を徹底していることに加え、自社の樽工場でていねいに組み上げた自家製樽も使用している。

1000℃超の熱で直火蒸留している

 ブレンド工程では、お客さまの飲用シーンまで意識した中味の設計を行なっている。例えば角瓶はハイボールとして飲まれることが多いため、ハイボールとしての美味しさにこだわった確認を実施。また、ブレンドする原酒の香味を確認する際にはブレンダー室のチーム全員で官能・議論を行なっている。これにより多くの視点で原酒を評価することができ、ブレンドの精度が上がる。

 また、できあがった製品はブレンダーだけでなく生産現場でも品質確認を行なっており、全社的に安定品質の実現に努めている。

 特に角瓶、響のような定番製品は原酒の品質が日々変化するなか、変わらず味を維持しなければならないため、サントリーが保存する原酒150万樽を定期的にサンプルをとり評価する原酒の棚卸しを行なっている。これにより香味が異なったとしても製品の製造ロットごとに必ず配合を確認でき、必要に応じて見直しを行なえる。

 また、これからの品質向上への新たな挑戦として、麦の旨味が強く引き出せ力強い味わいのウイスキーを作れるフロアモルティング設備を小規模ながら2022年に山崎蒸溜所に試験導入し、2023年に本格稼働させた。2024年には白州蒸溜所にも導入している。

 ビール酵母の培養プロセスについても外部から受け入れていたビール酵母を蒸溜所内で培養し調達を安定させるとともに、酵母の状態制御を行なうことにより品質を向上させている。こちらは白州蒸溜所で2024年9月中旬から稼働準備中で、2025年から本格稼働する予定となっている。

 電気炉加熱による直火で得られる香味も研究しており、2021年に山崎蒸溜所に試験導入した。直火で得られる高い美味品質と環境負荷の低減を両立を目的としており、電気加熱特有のよさについても可能性が見えてきているので今後の活用に期待してほしいと語った。

品質向上への新たな挑戦

 また、サステナブルなものづくりへも挑戦しており、世界で初めて水素ガスの燃焼による二酸化炭素排出ゼロ、かつ都市ガスによる直火蒸留同様の「コクと力強さ」を盛ったウイスキーづくりの実現に成功している。さらに日本での「天然水の森」活動の経験を活かしスコットランドの泥炭地(ピートランド)の復元活動および水源保全活動を推進している。

水素ガス燃焼などサステナブルなものづくりへも挑戦

 最後にはISCで最高賞を受賞した山崎12年と角瓶のハイボールの試飲を実施。山崎12年は濃厚で複雑な香りを楽しめた。加水することでさらに個性が分かりやすくなるという。角ハイボールはより角瓶の個性を味わえるようレモンなしのものだったが、角瓶の甘やかな香りが漂いレモンなしでも爽やかな味わいに仕上がっていた。