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サントリーが「ノンアル部」を設立した理由

2030年に出荷倍増の700億円を目指す

2025年2月5日 発表

代表取締役社長の鳥井信宏氏(右)とビール・RTD本部 ノンアル部長の福本匡志氏(左)

 サントリーは2月5日、ノンアルコール飲料に関する戦略説明会を開催し、代表取締役社長の鳥井信宏氏とビール・RTD本部 ノンアル部長の福本匡志氏が展望を語った。

 鳥井氏は、環境負荷の削減とともに生活を豊かにする酒類文化の伝承を同社としてのサステナビリティと位置づけ、適正飲酒の啓発を行なうとともにお酒の価値を伝えていく「ドリンク スマイル活動」に取り組んでいるとする。

 同氏は、「ノンアルコール飲料は単なるお酒の代替ではない。一般的な清涼飲料でもない。ノンアルコール飲料ならではの価値がある」として、これまでビール本部、スピリッツ本部、ワイン本部の各部門の下でノンアルコール飲料を取り扱ってきた体制を変更し、今年1月に新たに「ノンアル部」を設立したことを紹介。

2025年1月に「ノンアル部」設立

 福本氏によれば、2024年のノンアルコール飲料の市場規模は前年比111%の約4580万ケースで、直近の10年で約1.6倍に拡大していると推計される。しかし、金額ベースでは、酒類全体が約3.2兆円、清涼飲料全体が約5.3兆円と推計されるなか、ノンアルコール飲料は約1055億円となっており、酒類+飲料の1%ほどの規模しかなく、まだまだ拡大可能なポテンシャルがあると指摘。

 同社では、2030年時点でノンアルコール飲料の市場が1400億円に成長するポテンシャルがあると見ており、将来的には8000億円規模にまで拡大すると考えているという。そこで、ノンアルコール飲料を“アルコール0.00%のお酒”と位置づけ、対応を強化していく方針を打ち立て、2030年には市場シェア50%となる700億円を目標に掲げている。

 福本氏は、同社が2010年に本格参入したノンアルコール飲料の市場について、初期の飲酒運転問題の解決策というニーズから、健康意識の高まりに伴ってお酒を我慢するときの代替品としての価値が認知される時代になり、さらに市場を拡大するには、今後は新たな存在意義を提案していく必要があると語る。

 同氏は、“ノンアルをSMARTからFUNな飲み物に”というキーワードで、我慢するという消極的な選択肢から、楽しいときを演出できる積極的な選択肢へとカテゴリー全体のイメージを変えていくという戦略を表現しており、ブランドのポートフォリオの再構築を図っていく理由を説明した。

 同社のノンアルコール飲料事業は、これまでビール、RTD(スピリッツ)、ワインの各部門ごとに商品を企画するスタイルをとっていたが、新たに設立されたノンアル部では、消費者ニーズに沿った形でそれらの垣根を超えた商品の提案を行なっていく。

 消費者がノンアルコール飲料に求めるニーズや気分を分類すると、「リフレッシュ」「健康機能」「お酒の楽しい気分」の3つにゾーニングできるとして、この3つの軸で商品ラインアップの再構築を図っていくという。

「リフレッシュ」については、「オールフリー」ブランドを活用。アルコール、糖質、カロリー、プリン体の4つのゼロという特徴をビールテイスト以外にも拡大。ビールテイストの定番商品で4月上旬にリニューアルを実施するほか、4月22日に同様に4つのゼロを実現したサワーテイストの商品として「オールフリー クリア〈レモン&ライム〉」「オールフリー クリア〈ビターオレンジ〉」を発売する。

「オールフリー クリア〈レモン&ライム〉」と「オールフリー クリア〈ビターオレンジ〉」

 新商品は、いずれもお酒ならではの素材となるレモンピールやオレンジピール、ミントといったエキス、ボタニカルの香り、スパイスの香りを組み合わせて味覚設計を行なっており、炭酸水にはないような香りや余韻、キレを実現。福本氏は「甘すぎず爽快。新しいチャレンジとなるが、新ブランドとして育成して、リフレッシュニーズに応えていきたい」としている。

 また、「お酒の楽しい気分」を表現する商品としては、「のんある酒場」と「ワインの休日」の両ブランドを活用していく。それぞれ既存商品のリニューアルが実施される。

 さらに、秋頃をめどに飲食店向けの新商品を投入する。福本氏によれば、オールフリーの販売構成比は家庭用:業務用=7:1と業務用の比率が小さく、店頭での選択肢の拡大が求められている。ビールテイスト、レモンサワーテイストといった既存の酒カテゴリーをノンアルコール化したものではなく、さまざまな清涼飲料で割って“ベースのノンアル”として使える商品を開発しているとのこと。

 こうした商品開発に加え、大阪・関西万博や音楽イベントなどでの販売や、100万人規模のサンプリングを行なうことで、ノンアルコール飲料との接点を増やす取り組みも実施。4月以降は「攻めのノンアルしちゃおっか。」というキーワードの下、各ブランドの魅力を訴求していく。

 鳥井氏は、ノンアルコール飲料事業の課題について、「これまでは半信半疑でやってきた。課題は身内にあり、お酒の代替というイメージを社内で持っていた。そうではなく、攻めのノンアルは、もっともっとノンアルを楽しむものだとやっていかなければならない」と語る。

 2030年の目標としている700億円という数字については、「700億は結構な数字。ワインもそこまで大きくない。福本なのでとてつもなく失敗するかもしれないが、失敗から学んで挑戦してもらいたい。乞うご期待」とユーモアを交えて表現。

 2025年には前年比約1.3倍となる約50億円のマーケティング費用をかけてノンアルコール飲料市場を牽引する体制を築いていくとしている。