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ヴィネクスポ・アジア 2025に参加していた日本企業、どんな成果があった?

ヴィネクスポ・アジア 2025に並んだ日本酒

 5月27日から3日間にわたってシンガポールで開催された「ヴィネクスポ・アジア 2025」。純粋なビジネスイベント、かつ日本からそこそこ距離のある東南アジアということもあって、日本の出展者、参加者はごくわずかだったかもしれない。

 しかし、そうしたなかでもエネルギッシュに活動する方々もいた。ここでは、そんな日本の企業やインポーターの方たちにフォーカスしてレポートしたい。

CHOYA梅酒がブース出展、マイナス12℃の梅酒でアジアを冷やす

スピリッツ系のブースがある会場の一角

 ワインとスピリッツのイベントではあるものの、ヴィネクスポ・アジアのメインはやはりワイン。スピリッツの方はウイスキーやジン、白酒などの中国酒が目立つ程度で、どうしても脇役という感じではある。

 とはいえ、そこには日本を代表する梅酒メーカー、CHOYA梅酒の出展があった。正確にはシンガポール支社が出展する形だが、現地には大阪本社の代表取締役も応援に駆けつけるなど、力を入れていることがうかがえる。

CHOYA梅酒のブース

 梅酒は日本で製造したものを輸入する形をとっており、関税などの関係でシンガポールでは日本の2〜3倍の販売価格になることから、現地では少し贅沢なカクテルという位置付け。

 日本と同じようにグレード違い、フレーバーを追加したものなど多彩なバリエーションで展開しているが、一番人気は梅・お酒・砂糖のみを原料に使ったスタンダードなタイプで、梅の実入りの商品も引きが強いのだとか。

シンガポールでもいろいろなバリエーションの梅酒を販売中

 ところで、同社のブースで興味深かったのが、梅酒をマイナス12℃まで冷やして提供できるマシン。梅酒ボトルを逆さまにしてつなげるだけで、凍る寸前のキンキンに冷えた梅酒を味わえるというものだ。

 シンガポールのような暑い地域だと、確かに好む人が多そうな予感がする。実際、少し前にデモンストレーションした際には、一般の消費者から買いたいとの声がいくつも集まったとのこと。

梅酒をマイナス12℃まで冷やせるマシン。ほぼ赤道直下のシンガポールで、この冷たさはうれしい

 ただし、こちらのマシンはあくまでも業務用。今後数か月以内にシンガポール、タイ、香港などの飲食店向けに設置開始予定で、残念ながら今のところは一般販売や日本国内への導入は未定としている。

海外展示会に積極参加する幸姫酒造、甘めの日本酒が市場開拓の鍵

幸姫酒造のブース

 日本からはもう1社、佐賀に蔵元を置く幸姫酒造が出展していた。創業90余年の日本酒造りの老舗ですが、近年は製造量を増やしていく方針を打ち出し、新たな販路を求めて海外の展示会などに積極的に参加しているのだそう。

 同社の西村氏によると、世界各地のイベントにいくつも参加してきたなかでは、オーストラリアが最も手応えを感じられたとのこと。海外ではまだ日本酒について広く知れ渡っていないこともあり、ほとんどの地域でごく初歩的な質問をされるなか、オーストラリアでは深く突っ込んだ質問が目立ったのだとか。

幸姫酒造 社長室長の西村拓記氏(右)

 すでにそのオーストラリアのほか、フランス、イギリス、香港、中国などに出荷を開始しているところ。今回のイベントではシンガポールやマレーシアをはじめ、周辺国のインポーターからの引き合いが強かったことから、今後は東南アジアにビジネスが拡大する可能性もありそうだ。

 いずれにしても日本酒のことをあまり知らない人、日本酒が普及していない地域においては辛口より甘口のものが好まれる傾向がある。したがって、甘口の日本酒をメインに製造している幸姫酒造にとって海外は十分に勝機のある市場。世界への日本酒のさらなる広がりに期待が高まる。

甘口の日本酒をメインに製造しており、その特徴が海外の消費者にマッチすると見ている

今後の商品戦略のヒントを探るワインメーカー

 世界のワイン市場の動向は、当然ながら日本の市場においても無視できないもの。前回のレポート記事でも触れた通り、低アルコール・ノンアルコールワインという1つのトレンドが見えてきたわけだが、日本のワインメーカーやバイヤー(インポーター)にとって、こうした大きなイベントで得られる情報は、今後のビジネス戦略においても大いに参考になるのではないだろうか。

 ということで、日本からも当然ながらいくつかのメーカー、バイヤーの方が参加しており、そのうちのお2人に話を伺うことができた。

お話を伺った日本のワインメーカーの方

 ワインメーカーかつインポーターでもある日本企業の担当者によると、イベント参加の主な目的は情報収集。「世界のワイナリーがどのようなワインを仕掛けてくるのか、世界ではどういった流行があるのかを知り、それに対して当社ならどんな味わいの方向性にしていくのがいいのか、といったことを検討する際のヒントにしたい」と考えて臨んだのだそう。

「ワイナリーなど当事者の方たちと直接コミュニケーションを取って生の情報が得られるこうしたイベントは、とても貴重」としつつも、今回はワインそのものだけでなく「容器」にも注目しているとのこと。たとえば今回のヴィネクスポ・アジアでは缶ビールなどと同様のタブ缶を使用したワインをよく見かけた。

ヴィネクスポ・アジア 2025で見つけたかわいらしいデザインのタブ缶ワイン

 日本のワイン市場は横ばいではあるものの、缶ワインの販売量は右肩上がりで、コンビニで気軽に買える、新幹線などでの移動中に飲みやすい、飲み切りやすいといった点から人気が高まっているところ。「そうしたタブ缶ならではの良さを、私たちの言葉でしっかり伝えていかないと、と改めて感じました」という気付きもあったようだ。

 以前は何人かでシェアしながら飲むことが多かったワインだが、「最近では自宅で1人リラックスして飲むスタイルも珍しくない」というような時代。「度数のあまり高くないワインを求める方も増えてきて、ワインの楽しみ方が変わってきていると感じる。私たちもそうしたところをしっかりカバーする商品を生み出していければ」と意気込んでいた。

リーズナブルに飲める南アフリカのワインに熱視線

 一方、インポーターとして参加していた方は、新規の取引先の開拓と、既存の取引先との新たなビジネス創出が狙い。「今はオンラインでも商談できるが、ワインは実際に味わってみないと分からない。サンプルを送ってもらうのにも時間がかかるので、世界中のワイナリーが集まり、アポなしでも直接商談できるイベントは非常に効率が良く、助かる」とのこと。

お話を伺った日本のインポーターの方(左)

 昨今の日本の景気に鑑み、お手頃な価格かつクオリティの高いワインを軸に探しているなかで、特に注目しているのが南アフリカのワインだという。高い品質を備えているのはもちろんのこと、欧州からの船便が以前より時間がかかる状況になっている現在、それよりも早く届く南アフリカのワインであれば低コストで仕入れられ、消費者に安価で提供できる、というのもポイントだとしている。

「個人的には、日本の方はワインに対して保守的なところがあると感じている」とし、「なじみのなかった産地のものを試したり、そこから他のブドウ品種のものを試してみたり、冒険するのもワインの楽しみ方の1つ。辛口のロゼやオレンジワインを日本食と合わせるのも面白いので、いろいろとチャレンジしてみてほしい」と話していた。

これからの日本のワイン、お酒の変化を楽しみに

 こうした日本企業の活動が、国内ワイン市場の発展につながり、一般の消費者である我々は「よりおいしいワインが飲める」といった恩恵を受けられることになる。もしくは、日本発のお酒の認知度拡大や価値向上に寄与し、引いては国内の日本酒市場の活性化が期待できるだろう。

 一消費者としては、これからの日本のワイン、お酒がどう変化していくのか気になるところ。その変化の裏に製造元・販売元の人たちのさまざまな思いが込められている、というのが分かると、お店の売り場も今までとは違う視点で見ることができるかもしれない。