ニュース

サントリー、ウイスキーの味を決めるブレンダー室を初公開

2025年12月4日 取材
ブレンダー室でテイスティングする主席ブレンダーの輿石太氏

 サントリーは12月4日、同社のウイスキーの味を決めるブレンダー室の内部を報道関係者向けに公開した。

 同社では、「山崎」や「白州」といった世界的に高く評価されているジャパニーズウイスキーを製造しているが、原酒を交換する文化が根付いているスコッチとは異なり、一つの蒸溜所でさまざまな原酒をつくり、それをブレンドして複層的な味わいを生み出すのがサントリー流と言える。

 同社を創業した鳥井信治郎氏がマスターブレンダーとしてその役割を担っていたことからも分かるように、ブレンダーは現在販売する商品の味わいを決めることに加え、数十年後を見据えてどの原酒を残していくかなど、司令塔としてウイスキーづくりを支えている。

 そんなブレンダー室で主席ブレンダーを務める輿石太氏は、このほど厚生労働省の「卓越した技能者(現代の名工)」を受賞。今回の報道公開では、同氏がこれまで決して立ち入ることが許されなかった山崎蒸溜所内のブレンダー室の一部を案内してくれた。

 最初に案内されたのは、無数のサンプルボトルが並ぶ官能評価室。この日並べられていたのは2006年に蒸溜され、約20年ほど熟成された山崎モルト原酒。これらすべてが今すぐ商品として使用されるわけではなく、およそ5年後に山崎25年、10年後に響30年の原酒として用いられることになり、今使うものと将来に残すものの仕分けを行なう作業とのことで、輿石氏は「僕らブレンダーにとって、ここの作業が一番大事」と語る。

特別に立ち入りが許可されたブレンダー室内

 その隣にはブレンド設計ルームがあり、こちらでは商品化に向けて構成原酒を組み合わせて試作し、ブレンドのレシピを作っていく場所となる。一見すると無造作にボトルが置かれているように感じられるが、ブレンダーはどこに何があるかを把握しており、狙った味わいになるようにさまざまな組み合わせを試していくという。

 その奥にはバーコーナーがあり、サントリー以外のボトルもズラリと並んでいる。こちらは比較試飲を行なう場所で、さまざまな形状のグラスを使用しながら、味わいを確認していく。

バーコーナー

 ちなみに、ブレンダー室内には音楽が流れ、落ち着いた気持ちで繊細な作業に向き合えるように工夫されているのだとか。

 輿石氏によれば、サントリーでは原酒の「つくり込み」と「つくり分け」を強く意識しており、とりわけ後者のつくり分けにより多彩な原酒を保有しておくことがブレンドの幅や可能性を広げることに繋がる。

ブレンダーの業務

 ブレンダー室には現在、約10名のブレンダーが所属。輿石氏を筆頭に、30代までさまざまな世代の人材を確保することで、世代を超えて数十年にわたって熟成させるウイスキーの味わいを守りながら、匠の技を伝承。常にチーム内で意見を交わし、「今年の角、山崎はこれでいいと全員が集まってテイスティングして議論することで品質が向上していく」という。

 その過程では消費者の飲用シーンを意識し、中味の設計を行なっているとのことで、定番商品についても安定供給と品質の両立を図るため、年間で数十回も配合を見直す作業を行なっている。

 また、保有する約160万樽について、高酒齢や特別な樽は数年おきに全樽、スタンダード商品向けの樽は代表樽を毎年ロットごとにチェックを行なう。こうしたつくり込みによって品質の維持・向上が図られている。

「(ブレンド室に)来た時には原酒の見方とかブレンドのやり方が全然分からず、一番最初は白州12年を担当したが、全く分からずに先輩から教えてもらった。やっていくうちに分かってきて、響の40年も担当させてもらって、ブレンダーになって本当によかった」と振り返る輿石氏だが、繊細な味覚や嗅覚が求められるだけに、日頃から食事や体調管理に気を使っているという。

 ただ、「ニンニクの効いた料理やスパゲッティなどは金曜の夜に食べる。日曜の夜からは仕事に向けて準備するので、(自由に食べるのは)金曜の夜と土曜くらい」と、ストイックな生活の合間に息抜きできる時間を設けながら仕事を楽しんでいる様子だった。

山崎モルト、白州モルト、知多グレーンをブレンドして生み出される「響」