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サントリーウイスキー発祥の地「山崎蒸溜所」を見学・原酒の試飲もしてきた

猛烈な熱気と濃厚なアルコールの香り

2023年4月30日まで工場見学実施中

サントリーのウイスキー工場「山崎蒸溜所」を見学

 2023年に100周年を迎えたサントリーのウイスキーづくり。その発祥の地である大阪府三島郡にある山崎蒸溜所は、次の100年を見据え秋にリニューアルする計画となっているが、そのリニューアルを前に、現在の山崎蒸溜所を見学することができた。

2023年4月30日までなら、一般の人も予約をすれば今回紹介するものとほぼ同内容の有料見学プログラム「山崎蒸溜所ツアー」に参加できるので、ぜひ山崎蒸溜所の今の姿を目に焼き付けてほしい。

名水の地で製造される「山崎」のウイスキー

山崎蒸溜所

 JR京都線の山崎駅から徒歩約10分、京都府と大阪府のほぼ境目に位置する山崎蒸溜所は、1923年に創業者鳥井信治郎のウイスキーにかける強い信念から設立された。ここは大阪府で唯一「名水100選」に選定された「離宮の水」として知られる名水の地であり、原料として加える水としてはうってつけ。桂川、宇治川、木津川という3本の河川が交わる場所で、ウイスキーの熟成に適した湿度の高い土地でもあるのだという。

日本の名水100選にも選ばれた「離宮の水」
3本の河川から淀川へと合流する地点に工場がある
日によっては濃い霧に覆われることも
サントリーのウイスキーづくりの歴史を解説したサントリー株式会社 山崎蒸溜所工場長の藤井敬久氏
同氏は2010年に同所の20代目工場長に就任した

 設立翌年の1924年にはウイスキーの蒸溜が始まり、それから5年の歳月をかけた末、国産第1号となる本格ウイスキー「白札(しろふだ)」が誕生する。ところが、従来のお酒になかった焦げ臭さが当時の日本人には受け入れられず販売は低迷。それでも日本人の舌に合うウイスキーを模索し続け、1937年に現在も人気のロングセラー「角瓶」を発売し、市民権を得る。

1923年に製造され、再蒸溜(2回目の蒸溜)に使われたというポットスチル。100%銅製
山崎蒸溜所の貯蔵庫に展示されている、1924年に仕込まれたサントリーの最初のウイスキー樽とされるもの
1929年に発売された国産ウイスキー第1号「白札」
1937年に「角瓶」が登場

 その後1983年ごろをピークにウイスキー人気は右肩下がりを続けるも、2003年には蒸溜所の名を冠した「山崎12年」が世界的な酒類コンペティションである「ISC2003」において国産ウイスキー初の金賞を受賞。2008年に「角ハイボール」がヒットしたのを契機に市場も回復基調へと入る。そして、サントリーが手がける「山崎」や「白州」をはじめ、近年のジャパニーズウイスキーの人気の高まりは言わずもがなだ。

ウイスキー販売数のピークは1983年頃、その後は長期に渡って落ち込んだ
しかし、2008年に「角ハイボール」がヒットし、徐々に需要は回復

 山崎蒸溜所では、地名と同じくする「山崎」ブランドのシングルモルトウイスキーを主に製造する。モルトウイスキーの香り付けの基礎となるピートは、本場のスコットランドの製造会社に山崎独自の要望を伝えて生産してもらい、輸入。そのピートで炊いた麦芽を仕込んで麦汁を発酵させ、「ポットスチル」と呼ばれる独特な形状の設備で2度にわたって蒸溜を行なう。そうして得られた原液は木樽に入れて貯蔵され、数年から数十年の熟成を経て、商品として私たちの手元に届けられることになる。

サントリーにおけるウイスキーの製造工程
案内していただいたサントリー株式会社 シニアスペシャリストの佐々木太一氏
サントリーのバレーボールチームに所属し、引退後、全国に11名しかいない「マスターオブウイスキー」の資格を取得
製造工程序盤の仕込みに使う樽
麦芽を粉砕し、60℃以上のお湯に浸すことで麦芽に含まれるデンプンを14度ほどの糖度にする
できた麦汁は発酵の工程へ。発酵中のアルコールの濃厚な香りが充満している。発酵槽で糖分を発酵させ、アルコールに変化させる
木製の発酵槽はこのエリアに8個、ほかの場所にステンレス製の発酵槽が12個あるという
特別に発酵中の中身を見せていただいた。この発酵樽のエリア自体、通常は立ち入り禁止となっている
酵母が分裂してかさが増してくるのを、プロペラで断ち切って押さえている。ここでできあがったものは、アルコール度数でいうと7~8%程度
およそ40kLの容量だが、実際に入れるのは半分ほど。深さは5mあるとのこと
次は蒸溜工程。内部での撮影は禁止のため、ドアの外からの撮影となった
向かって左側に並ぶポットスチルが初溜に使うもの。ガスによる約1300℃の直火で加熱する。室内に入るとサウナのような猛烈な熱気
気化したアルコールを冷却器に通して戻すことで、アルコール度数が20%以上となる。その後、右側にあるポットスチルで再蒸溜する
形状に独自の工夫を凝らしたポットスチルを用いている

膨大なパターンの樽で原酒をつくり分けるサントリーのこだわり

 ただし、山崎においては木樽に貯蔵された中身がそのまま商品になることはない。通常は1つの樽から得られる「原酒」を何種類も組み合わせ、サントリーに10人程度しかいないとされる「ブレンダー」と呼ばれる人たちが熟成中に何度もテイスティングを重ねつつ、長年の経験をもとに熟成の「ピーク」を察知して、最適な配合を行なうことで「山崎」らしい香り・味わいの製品に仕上げていくという。

 熟成する樽にはワイン樽、スパニッシュオーク樽、ミズナラ樽など素材・サイズの異なるものが用いられており、それによって香りや熟成の仕方も1つ1つ違った個性的なものになる。熟成年数なども含めて考えると膨大なパターンの原酒が存在することになり、そこからベストな組み合わせの商品をつくり出すのは、まさに神がかり的といってもいいかもしれない。

ウイスキーを熟成する貯蔵室
アルコール度数60度以上で樽に詰め、その後は揮発することで年間2~3%程度度数が下がり、かさが減っていく
さまざまなタイプの熟成樽を使用している
主に樽の違いによって個性的な色や香りがつく
自社製造した樽を熟成に使用している
使用する素材や香り付けにもこだわり
森林の保全活動にも取り組んでいる
ピートは本場スコットランドのものを使用
ブレンダーの手によって多数の原酒が配合され、商品として出荷される

 このように1つの蒸溜所でさまざまなタイプの原酒をつくり分けているのは、ウイスキーの本場スコットランドとは異なる山崎蒸溜所ならではの特徴でもあるという。「山崎」シリーズでは、700mLで通常価格1万円を超えるものもあるが、製造過程において複雑かつ繊細な技術とノウハウ、サントリーならではのこだわりがそこに詰め込まれていることを知ると、決して値段は高くないと思える。むしろこれほどのお酒をリーズナブルに飲めるのはありがたい、と感じてしまうほどだ。

「ローヤル」のボトルの形は、隣接している椎尾神社の鳥居の形に着想を得たのだとか

「山崎蒸溜所ツアー」では、実際にウイスキーを製造している工場内を巡り、仕込み、発酵、蒸溜、貯蔵という一連の工程を見た後、試飲もできる。今回試飲したのは「ホワイトオーク樽原酒」「スパニッシュオーク樽原酒」「ミズナラ樽原酒」「スモーキー原酒」の4種。「原酒」なので、市場では販売されていないツアーだけで味わえる特別なものだ。

試飲した4種の原酒。どれも「我」が強い印象で、個人的には「美味しい」というより「面白い」と感じた。これらを万人が飲みやすいように配合するのは大変な作業に思える

「ホワイトオーク樽原酒」は香ばしい穀物感のあるもの、「スパニッシュオーク樽原酒」は濃厚なフルーツの味わいで、「ミズナラ樽原酒」はクリーミーなキャラメルのような香りがある、というのが基本的な特徴。「スモーキー原酒」はより強烈なピートを感じられる。試飲するときは加水することで、より個性を引き立てられ違いを感じやすくなることもある。

リニューアルまでに「山崎」の原点を記憶に留めたい

 山崎蒸溜所は、秋のリニューアルに向け、すでに建物の外装工事が始まっている。この100年の間には、工場長いわく、ウイスキーが売れず「苦しい時代を過ごしてきた」という時代もあったが、これからの100年に向け、「過去を反省して変えるべきところは変え、日本だけでなく世界中のお客様にも楽しく飲んでいただけるようにしてきたい」と語っていた。

 リニューアル後には一部の製造設備が置き換えられ、二度と見られなくなるものもあるかもしれない。今のうちに見学に訪れて、これまで多くの人に親しまれてきた「山崎」の原点を記憶に残しておくのはいかがだろうか。

山崎蒸溜所の外観工事はすでに始まっている