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シングルモルトウイスキー山崎が生まれる場所。リニューアルした「サントリー山崎蒸溜所」を見学してみた
2023年10月12日 16:51
- 2023年11月1日 開始
山崎や響などサントリーの代表的なウイスキーを製造している山崎蒸溜所の改修が一区切りし、11月1日から一般公開される。あわせて2023年5月より休止していた工場見学ツアーも再開され、「山崎蒸溜所 ものづくりツアー」(参加費3000円)および「山崎蒸溜所 ものづくりツアー プレステージ」(同1万円)という有料・抽選制のプログラムとなる。今回は生まれ変わった山崎蒸溜所と、工場見学ツアーで見ることのできる新たな設備を紹介したい。
ウイスキーづくりの魂が宿る「元ポットスチル」の門がお出迎え
サントリー山崎蒸溜所のリニューアルにあたってのコンセプトは「ソウル(魂)」。1923年に建設され、2023年でちょうど100周年を迎える山崎蒸溜所が、創業時から受け継いできたウイスキーづくりへの思い、山崎という土地の自然に宿る思いなどを表現するべく、そうした「魂」が感じられるあしらいを各所に施したという。
JR京都線山崎駅から徒歩10分ほど、京都と大阪のほぼ境界に位置している山崎蒸溜所。離れた場所からでも目に入る大きな「山崎」の看板は、以前の「THE YAMAZAKI SINGLE MALT WHISKEY」から「SUNTORY WHISKEY YAMAZAKI DISTILLERY」へと変更されている。
それを左に見ながら最初にくぐるのが、ウイスキーの蒸溜工程で実際に1989年から2018年まで使われていたポットスチルを再利用した銅製の門。そこから「山崎の“杜”」と命名されたエリアの小道を少し歩いた先に、受付を兼ねた「山崎ウイスキー館」がある。受付カウンターの側面に張り付けられているのはウイスキー樽を再利用した板で、歴史を感じさせる風合いだ。
受付カウンターの反対側は、サントリーや山崎蒸溜所が歩んできたお酒・ウイスキーづくりの歴史がわかる展示コーナーのスタート地点となっている。1907年に発売した赤玉ポートワインに始まり、山崎蒸溜所建設当時の設計図、歴代ウイスキーなどがコンパクトに紹介されている。
展示コーナーを抜けると、ウイスキーを有料で試飲可能な「テイスティングラウンジ」にたどり着く。古いポットスチルをベースにしたカウンターを中心に、あらゆる年の原酒樽から抜き取ったサンプルのボトル約3000本が四方から取り囲むレイアウトとなっている。発酵槽の実物の一部も展示されており、その深さ・巨大さがよくわかる。
ウイスキー樽から抜き取るサンプリング作業も実演
「ものづくりツアー」ではこれまでの見学ツアーと同じくウイスキーの製造現場に立ち入ることができる。サントリーによれば、リニューアル後は一段と「熱気・香味・音など五感で体感」できる内容にしたという。
新設された「仕込前室」で一連の製造工程を動画で学び、そこを通り抜けると「仕込室」へ。麦芽と山崎の仕込水で麦汁が作られる巨大な仕込槽を見ることができる。ここは従来の見学ツアーと同じだが、これまで立ち入り不可となっていた木桶の発酵槽がある「発酵室」にも新たなツアーでは入室可能になり、発酵時特有の甘い香りを体感できる。さらに「プレステージ」では発酵槽のふたを開け、中で麦汁が発酵している様子を目の当たりにすることも可能だ。
ユニークな形をした銅製のスチルポットが並ぶ蒸溜工程のエリアも、従来と同様に見学コースに入っている。リニューアルで正面に「山崎」のロゴが掲げられたほか、2023年に更新されたばかりでまだピカピカの新品らしい姿を保っている奥2基の再溜釜も間近で確認できる。室内は加熱されている蒸溜釜からの熱気に満たされており、長居するのは危険なほどだ。
樽材が壁に張られた廊下を抜け、続いては「貯蔵庫」へ。無数のウイスキー樽が整然と並ぶ貯蔵庫は空気がじめじめしており、わずかにカビくささも感じられる。それぞれの樽には原酒が樽詰めされた年が記載されており、なかには1970年代のビンテージなものも。樽の素材や製造方法に関する展示があるほか、山崎蒸溜所で最初期に使われた1924年と記載のある樽も設置されている。
「プレステージ」ではウイスキーの熟成具合を確認するために定期的に行なっている「後熟庫」でのサンプリング作業も見学可能だ。樽の腹部分にはめ込まれた木栓をノミと木槌で大きな音を響かせながら削り取り、そこにホースを差し込んでサイフォンの原理でボトルに移す作業は、貯蔵庫の静謐な雰囲気もあいまって緊張感が漂う。夏場は蒸し暑く厳しい環境になる後熟庫で、こうした作業を1か月間に40~50回繰り返すとのことで、それだけでもウイスキーづくりの大変さが伝わってくる。
その後、通常のツアーでは広いゲストルームでのテイスティングへと移るが、「プレステージ」では特別感のある新ゲストルーム「The YAMAZAKI」でのテイスティングとなる。過去にサントリーがイベントなどで販売してきたというユニークな形状のウイスキーボトルが並ぶ廊下の先に、窓から竹林や紅葉などが臨めるこぢんまりとした部屋があり、そこで一段上のプレミアムな体験ができるという趣向。テーブルや椅子にはやはりウイスキー樽を元にした集成材が使用されており、カウンターの側面にはポットスチルを再利用した銅板がはられている。
「プレステージ」を含め「ものづくりツアー」のコースには入っていないが、今回の取材会では山崎蒸溜所が1968年に立ち上げたウイスキーの試作・技術開発施設である「パイロットディスティラリー」も披露した。
「パイロットディスティラリー」には仕込から貯蔵までの全工程を行うための小型の設備が集約されており、ブレンダーらがテイスティングを行なう「官能室」も用意されている。一度のプロセスで製造できるのは樽1個分程度とのことだが、大量生産する工場に近い設備を用いて原料や製造プロセスなどを試行錯誤できるようにし、新たなレシピ開発につなげている。
たとえば山崎蒸溜所で2023年2月からスタートした、大麦を発芽させるフロアモルティングの事前テストも同施設内で実施。蒸溜釜には、将来的にガスを使わなくなる可能性も見据え、ガスによる直火式と電気式を兼ねた「ハイブリッド」設計のものを導入した。電気であっても直火と同様の品質を達成しつつ、細かく安定した制御が可能な電気式ならではの新たな味わい創出も目指すとしている。
ツアーは抽選制で12月以降、入館予約すれば無料でも楽しめる
「山崎蒸溜所 ものづくりツアー」および「山崎蒸溜所 ものづくりツアー プレステージ」はWebサイトの応募フォームから抽選に申し込み、当選した場合にのみ予約が可能。日本語によるツアーとインバウンド向けの英語によるツアーの2種類が用意されているが、すでに11月実施分の抽選応募は受付が終了している。今後は10月14~20日に12月実施分の参加者を募集する予定だ。
各ツアーでは今回紹介した施設見学のほか、ツアーの種類に応じて「サントリーシングルモルトウイスキー山崎」「山崎ハイボール」「モルトウイスキー原酒」「山崎12年(プレステージのみ)」などをテイスティングでき、「山崎オリジナルテイスティンググラス」をお土産として持ち帰ることができる。なお、歴史展示やテイスティングラウンジ、ギフトショップのある山崎ウイスキー館は、事前予約が必要ではあるものの無料で入館可能。
同社によると、来場者目標は2023年内に5万人、通年実施となる2024年は13万5000人を見込んでいる。外国語対応についてはさらなる強化も計画しており、ジャパニーズウイスキーの海外人気の高まりを一層後押ししていく考えだ。