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シングルモルトウイスキー山崎が生まれる場所。リニューアルした「サントリー山崎蒸溜所」を見学してみた

2023年11月1日 開始

山崎蒸溜所

 山崎や響などサントリーの代表的なウイスキーを製造している山崎蒸溜所の改修が一区切りし、11月1日から一般公開される。あわせて2023年5月より休止していた工場見学ツアーも再開され、「山崎蒸溜所 ものづくりツアー」(参加費3000円)および「山崎蒸溜所 ものづくりツアー プレステージ」(同1万円)という有料・抽選制のプログラムとなる。今回は生まれ変わった山崎蒸溜所と、工場見学ツアーで見ることのできる新たな設備を紹介したい。

ウイスキーづくりの魂が宿る「元ポットスチル」の門がお出迎え

100周年を迎える山崎蒸溜所のウイスキー

 サントリー山崎蒸溜所のリニューアルにあたってのコンセプトは「ソウル(魂)」。1923年に建設され、2023年でちょうど100周年を迎える山崎蒸溜所が、創業時から受け継いできたウイスキーづくりへの思い、山崎という土地の自然に宿る思いなどを表現するべく、そうした「魂」が感じられるあしらいを各所に施したという。

 JR京都線山崎駅から徒歩10分ほど、京都と大阪のほぼ境界に位置している山崎蒸溜所。離れた場所からでも目に入る大きな「山崎」の看板は、以前の「THE YAMAZAKI SINGLE MALT WHISKEY」から「SUNTORY WHISKEY YAMAZAKI DISTILLERY」へと変更されている。

大きな山崎ロゴの看板は、英文表記が変更されている

 それを左に見ながら最初にくぐるのが、ウイスキーの蒸溜工程で実際に1989年から2018年まで使われていたポットスチルを再利用した銅製の門。そこから「山崎の“杜”」と命名されたエリアの小道を少し歩いた先に、受付を兼ねた「山崎ウイスキー館」がある。受付カウンターの側面に張り付けられているのはウイスキー樽を再利用した板で、歴史を感じさせる風合いだ。

敷地に入って最初にくぐる門
実際の蒸溜に使われていたポットスチルの銅板を素材にしている
2018年まで使われていた5号釜を示す刻印
建物正面あたりには同じ門がもう1つある
小道に入ってすぐのところにある祠。かつて一帯が神社だったことが由来で守り神的に存在していたものだが、改修に伴い脇に移設したという
少し歩けば「山崎ウイスキー館」にたどり着く
入口のホール
受付カウンター
ウイスキー樽を再利用した板が側面に

 受付カウンターの反対側は、サントリーや山崎蒸溜所が歩んできたお酒・ウイスキーづくりの歴史がわかる展示コーナーのスタート地点となっている。1907年に発売した赤玉ポートワインに始まり、山崎蒸溜所建設当時の設計図、歴代ウイスキーなどがコンパクトに紹介されている。

お酒・ウイスキーづくりの歴史展示コーナー
赤玉ポートワイン
展示用の個室がいくつか連なっている
最初の蒸溜所の設計図
歴代のウイスキー
ウイスキー瓶を素材に作られたステンドグラスも。SUNTORYのエンボスなど特徴的な凹凸にその名残が見える

 展示コーナーを抜けると、ウイスキーを有料で試飲可能な「テイスティングラウンジ」にたどり着く。古いポットスチルをベースにしたカウンターを中心に、あらゆる年の原酒樽から抜き取ったサンプルのボトル約3000本が四方から取り囲むレイアウトとなっている。発酵槽の実物の一部も展示されており、その深さ・巨大さがよくわかる。

テイスティングラウンジ
山崎をはじめさまざまな種類のウイスキーを有料で試飲できる
約3000本のサンプルボトルに囲まれている
木桶の発酵槽の実物がそびえ立つ
上階にある展示コーナー
製造工程の説明や、樽に使われるミズナラの標本
この展示台の側面に使われているのもポットスチルを元にした銅板
ギフトショップ

ウイスキー樽から抜き取るサンプリング作業も実演

「ものづくりツアー」ではこれまでの見学ツアーと同じくウイスキーの製造現場に立ち入ることができる。サントリーによれば、リニューアル後は一段と「熱気・香味・音など五感で体感」できる内容にしたという。

見学コース開始地点付近にたたずむ古いポットスチル

 新設された「仕込前室」で一連の製造工程を動画で学び、そこを通り抜けると「仕込室」へ。麦芽と山崎の仕込水で麦汁が作られる巨大な仕込槽を見ることができる。ここは従来の見学ツアーと同じだが、これまで立ち入り不可となっていた木桶の発酵槽がある「発酵室」にも新たなツアーでは入室可能になり、発酵時特有の甘い香りを体感できる。さらに「プレステージ」では発酵槽のふたを開け、中で麦汁が発酵している様子を目の当たりにすることも可能だ。

仕込前室。ここで一連の製造工程などがわかる動画を見られる。「プレステージ」では後述の個室「The YAMAZAKI」で同じ内容を視聴してからの見学開始となる
粉砕された麦芽のサンプル
仕込室
発酵室
通常のツアーでは赤い仕切りの先端あたりまで入ることができる
木桶の深さがわかるように足元を透過して見られるようになった
プレステージではフタを取って中を覗ける。炭酸ガスが発生しているため顔を近づけないよう注意

 ユニークな形をした銅製のスチルポットが並ぶ蒸溜工程のエリアも、従来と同様に見学コースに入っている。リニューアルで正面に「山崎」のロゴが掲げられたほか、2023年に更新されたばかりでまだピカピカの新品らしい姿を保っている奥2基の再溜釜も間近で確認できる。室内は加熱されている蒸溜釜からの熱気に満たされており、長居するのは危険なほどだ。

蒸溜室。正面の壁に山崎ロゴが設置された
初溜釜に変更はなし
再溜釜は奥の2基が更新された

 樽材が壁に張られた廊下を抜け、続いては「貯蔵庫」へ。無数のウイスキー樽が整然と並ぶ貯蔵庫は空気がじめじめしており、わずかにカビくささも感じられる。それぞれの樽には原酒が樽詰めされた年が記載されており、なかには1970年代のビンテージなものも。樽の素材や製造方法に関する展示があるほか、山崎蒸溜所で最初期に使われた1924年と記載のある樽も設置されている。

廊下を歩いて次の貯蔵庫へ
貯蔵庫
中身を見えるようにした樽。熟成後(左)の量が減り、色も濃くなっていることがわかる
熟成樽を作るための素材や器具の展示
内部を焦がした(チャーした)樽
1924年、山崎蒸溜所で初めてウイスキーを作ったときの樽

「プレステージ」ではウイスキーの熟成具合を確認するために定期的に行なっている「後熟庫」でのサンプリング作業も見学可能だ。樽の腹部分にはめ込まれた木栓をノミと木槌で大きな音を響かせながら削り取り、そこにホースを差し込んでサイフォンの原理でボトルに移す作業は、貯蔵庫の静謐な雰囲気もあいまって緊張感が漂う。夏場は蒸し暑く厳しい環境になる後熟庫で、こうした作業を1か月間に40~50回繰り返すとのことで、それだけでもウイスキーづくりの大変さが伝わってくる。

後熟庫
サンプリング作業の実演。木槌とノミで木栓を削り取っていく
ホースを使ってボトルに少量を移す
抜き終わったら新しい木栓で再び埋める

 その後、通常のツアーでは広いゲストルームでのテイスティングへと移るが、「プレステージ」では特別感のある新ゲストルーム「The YAMAZAKI」でのテイスティングとなる。過去にサントリーがイベントなどで販売してきたというユニークな形状のウイスキーボトルが並ぶ廊下の先に、窓から竹林や紅葉などが臨めるこぢんまりとした部屋があり、そこで一段上のプレミアムな体験ができるという趣向。テーブルや椅子にはやはりウイスキー樽を元にした集成材が使用されており、カウンターの側面にはポットスチルを再利用した銅板がはられている。

新ゲストルーム「The YAMAZAKI」手前の廊下
ユニークなウイスキーボトルたち
新ゲストルーム「The YAMAZAKI」
机や椅子の素材はもちろんウイスキー樽などを再利用したもの
カウンターの側面は元ポットスチルの銅板
見えるところには飾られていなかったが、かつてポットスチルだったとき表面に取り付けられていた「No.6」のプレートもあった

「プレステージ」を含め「ものづくりツアー」のコースには入っていないが、今回の取材会では山崎蒸溜所が1968年に立ち上げたウイスキーの試作・技術開発施設である「パイロットディスティラリー」も披露した。

「パイロットディスティラリー」には仕込から貯蔵までの全工程を行うための小型の設備が集約されており、ブレンダーらがテイスティングを行なう「官能室」も用意されている。一度のプロセスで製造できるのは樽1個分程度とのことだが、大量生産する工場に近い設備を用いて原料や製造プロセスなどを試行錯誤できるようにし、新たなレシピ開発につなげている。

 たとえば山崎蒸溜所で2023年2月からスタートした、大麦を発芽させるフロアモルティングの事前テストも同施設内で実施。蒸溜釜には、将来的にガスを使わなくなる可能性も見据え、ガスによる直火式と電気式を兼ねた「ハイブリッド」設計のものを導入した。電気であっても直火と同様の品質を達成しつつ、細かく安定した制御が可能な電気式ならではの新たな味わい創出も目指すとしている。

「パイロットディスティラリー」の仕込槽
こちらは発酵槽。すべてステンレスとしている
左の初溜用の蒸溜釜はガスによる直火式と電気式のハイブリッド設計

ツアーは抽選制で12月以降、入館予約すれば無料でも楽しめる

「山崎蒸溜所 ものづくりツアー」および「山崎蒸溜所 ものづくりツアー プレステージ」はWebサイトの応募フォームから抽選に申し込み、当選した場合にのみ予約が可能。日本語によるツアーとインバウンド向けの英語によるツアーの2種類が用意されているが、すでに11月実施分の抽選応募は受付が終了している。今後は10月14~20日に12月実施分の参加者を募集する予定だ。

 各ツアーでは今回紹介した施設見学のほか、ツアーの種類に応じて「サントリーシングルモルトウイスキー山崎」「山崎ハイボール」「モルトウイスキー原酒」「山崎12年(プレステージのみ)」などをテイスティングでき、「山崎オリジナルテイスティンググラス」をお土産として持ち帰ることができる。なお、歴史展示やテイスティングラウンジ、ギフトショップのある山崎ウイスキー館は、事前予約が必要ではあるものの無料で入館可能。

 同社によると、来場者目標は2023年内に5万人、通年実施となる2024年は13万5000人を見込んでいる。外国語対応についてはさらなる強化も計画しており、ジャパニーズウイスキーの海外人気の高まりを一層後押ししていく考えだ。