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サントリー、日本固有品種「甲州」のフラグシップワイン「登美」発売

2024年日本ワイン戦略会見より

2024年5月14日 発表

「登美 甲州」「登美 赤」

 サントリーは5月14日に2024年「サントリー日本ワイン」戦略についての会見を実施した。

 登壇した常務執行役員 ワイン本部長の吉雄敬子氏が、サントリーワイン全体の中長期の取り組みについて説明。サントリーはワインに対してものづくりということを非常に大事にしており、しっかりとしたよいワインを作り、それによって日本のワイン文化を作り上げていきたいと語った。

サントリー株式会社 常務執行役員 ワイン本部長 吉雄敬子氏

 また、まだ日本ではワインというものに親しんでいない層も多く、さまざまなワイン(無添加ワインや缶ワインなど)を商品化することによって幅広い需要を創造し、それとともにワイン文化を伝播させていきたいと述べた。

「需要創造」「ワイン文化の伝播」「サステナビリティ推進活動強化」が軸

 なお、サントリーは2022年9月に日本ワインのブランドを“すべてを畑から”という思いを込めて「SUNTORY FROM FARM」ブランドにまとめ大きく刷新している。

日本ワインブランドを「SUNTORY FROM FARM」に刷新

 サントリーは100年にわたって日本ワインを作っているが、2022年のブランド刷新にあたってワインの作り手や畑でぶどうを作っている生産者、マーケティング、営業の人間と話したところ「よい日本ワインを一生懸命作っているにもかかわらずサントリー社員にもお客さまにも知名度がない」ということが判明し、「サントリーのワインって畑じゃなくて工場で大量生産してるんでしょ?」と言われるような状況で、こちらのアピールが足らないのではないかということを強く感じたという。

 それに対して「SUNTORY FROM FARM」というブランドでは“水と土と人”というところに大きなメッセージを込めており、自然のなかで大地に向き合って栽培から営業まで含めすべての作り手が心を込めて作っているということを理念としたとのこと。

 また、サントリーの作る日本ワインのビジョンとして、ほかの国のワインを模倣するのではなく日本独自のオリジナリティがあり、かつそれが世界にも肩に並べるような評価に達し、日本だけでなく世界のお客さまからも愛されるようなワインにすることを目標としていると語った。

日本独自の個性を持ち世界に通用するワインが目標

 すでに同社の日本ワインフラグシップ「登美」はコンクールでも大きな評価を受賞ししており、デキャンタ・ワールド・ワイン・アワードでプラチナ/金賞を受賞しており、その評価は高まっている。

国際・国内コンクール双方で高い評価を受けている

 2023年の戦略として、まずお客さまに実際の取り組みを知ってもらうためにもワイナリーを重要視しさまざまなツアーを行なった。内容も絶えず改善をしており、作り手とマーケティングの人間が一緒にお客さまと対話し質問を受け付けるなどさまざまな試みを通じてワイン作りを感じてもらった。その結果として入場者も増え好評をもらっているとのこと。

取り組み内容を知ってもらうためワイナリーツアーを実施

 そして2024年の戦略骨子は世界に挑戦していくためにものづくりと、ワイナリーを目に見える形で着実に進化させることで、ものづくりに関してはフラグシップワインを進化させ、ワイナリーに関してはお客さまに接点としての機能を進化させたいと語った。

 同社の日本ワインフラグシップとしては現在登美の丘ワイナリーで作っている「登美」があり、日本固有のぶどう品種である「甲州」でいかによいものを作って進化させていくかが大事と述べた。

フラグシップブランドのシンボルシリーズ「登美」

 甲州は日本の風土に合っており和食などにも合うため、これにしっかりと力を入れていくとのこと。まだ海外にまで広めるには収穫量が不足しているが、段階的に増やしており、2030年には2023年比で収穫量は6倍に増えるとの話だ。

日本固有のぶどう品種「甲州」を強化
甲州収穫量は2030年に6倍に

 甲州を使ったワイン3種は国際コンクールでも受賞しており、収穫量が増えれば量と品質を両立することができる。今年はフラグシップである“登美”ブランドで甲州ぶどうワイン「登美 甲州」(税別1万2000円/9月10日発売)を発売することになったと述べた。

甲州を使ったフラグシップワイン「登美 甲州」

 ここ数年ずっと甲州を使ったフラグシップワインを出したい思いがあったが、自信を持って送り出せる甲州ぶどうの栽培とワインの醸造ができて初めて世に出せるという気持ちだったのでそれがやっと実現できたという。

 またもう一つのフラグシップワイン「登美 赤」(税別2万円/9月10日発売)も発売する。

登美の丘で栽培したプティ・ヴェルドを使った「登美 赤」

 登美の丘では1950年代から欧州系品種のぶどうを作っており、登美の丘に合う赤ワインを考え続けてきた。日本のテロワール(ぶどう畑を取り巻く自然環境)に合うものを考えた結果、現在は「プティ・ヴェルド」の比率をもっとも高めていると語る。

現在はプティ・ヴェルドの構成比がもっとも高くなっている

 プティ・ヴェルドは欧州では補助品種扱いだが、日本のテロワールにおいて非常に相性のよいワインが作れるとのこと。ここ数年登美の丘の赤ワインは大きく進化し、しっかりとしたよい赤ワインが作れるようになったという。

現在はプティ・ヴェルドの構成比がもっとも高くなっている

 広大な畑を活かして最高のワインを作るため、テロワールの個性を最大限に活かすように複雑な斜面など栽培箇所を50の区画に分けそれぞれのテロワールに合ったぶどう作りを行なっていると語る。

それぞれのテロワールを活かすため畑を50区画に分けて栽培

 また、区画ごとのぶどうの個性を活かすために新醸造棟を今年の9月から建設を開始。来年の9月には完成しワインを作り始めるという。40台の小型タンクを設置しており、登美の丘でもっともよいワインを作っていくとのこと。

2025年9月に完成する新醸造棟は40台の小型タンクを備える

 50の区画ごとにぶどうがかなり異なるため収穫のタイミングも変わる。それら個性の違うぶどうをそれぞれのタンクでしっかりと醸造するための設備になっており、実際に作っている状況も見学できるようにするという。

小ロット仕込でワイン作りを進めていく
ワイナリーでのPR活動も強化

 さらにサステナビリティ(持続可能性)も重視しており、サントリーでは100年かけてワインを作り続けているため、気候の変化を現場の実感としてとらえることができ、これに持続的に対応していると語る。気候変動の対応と自然環境や土壌保全、地域社会との共生なども実現していくという。

気候変動に合わせて植え付ける品種を変えるなどの対応を進める

 気候変動に応じて新しい品種を植えつけるなどの対応を実施し、地域社会との共生や土壌の健全化には地元のシイタケ廃菌床や稲わらの有効活用を促進している。そのほか社員のボランティア活動やワイナリーツアーなどを通じて地域社会への理解を深めているとのこと。

 次にサントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平氏が登壇。登美の丘で世界に肩を並べるジャパニーズワインの実現を目標にしているが、そのためには高いレベルでテロワールが反映されることが必要でその追求が世界に通じる道だと語る。

サントリー株式会社 サントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長 大山弘平氏

 登美の丘におけるワイン作りの長い歴史でさまざまな調査を繰り返して25ヘクタールの畑の特徴に応じて50区画に栽培を細分化。長年トライアンドエラーを繰り返し見きわめてきた最適な場所に最適な品種を栽培してきており、その結果生まれたのが今回の「登美 甲州」と「登美 赤」とだと述べた。

テロワールの追求に基づいて栽培を実施

 甲州は病気に強くワインの味わいがクリーンだが、欧州系品種と比べて糖度が上がりにくい。いかに品種が持つよさを活かしつつ凝縮感を高めるかというのが世界の白ワインと肩を並べる鍵だと語った。

糖度が低い甲州の凝縮感をいかに高めるかがポイント

 世界品質を目指す取り組みは約10年前から始めており、凝縮感が期待される系統に適した圃場を選び、適した方法で栽培する。さらに完熟したぶどうだけを厳選して収穫しているとのこと。

系統・圃場・果実を厳選して製造

 甲州は現在9区画あり、登美 甲州のために凝縮感を与える赤ワイン用の水はけのよい土壌を使っている。畑作りからワインを設計しており、山梨県が選抜する系統の中でもっとも糖度が高い系統を選んで植えているという話だ。

圃場選びの段階から味のビジョンを明確にし栽培を行なっている

 3年経って収穫したぶどうは完熟したもののみを房単位で選抜し醸造する。登美 甲州の区画では一般的な区画と比較して高い糖度のぶどうを収穫することができ、さらに年を追うごとに糖度が上がり目標であった18度を安定して超えてきたという。

系統を厳選した結果過去4年で果汁糖度が大きく高まった

 そして2023年産のワインでついにフラグシップブランドである“登美”を冠する甲州をリリースすることになった。甲州という品種、そして登美の丘のテロワールに敬意を払い、凝縮感と気品を高次元であわせ持つこれまでの甲州とは一線を画すワインになったと語る。

登美 甲州

 登美 赤に使われている「プティ・ヴェルド」はフランス原産のぶどう。ボルドーでは補助品種として栽培されており、ワインに濃い色合いとスパイスのアクセントを与えるもので、数%ブレンドされるのが一般的だが、これを登美の丘で栽培すると、もともとプティ・ヴェルドが持っている強い個性が登美の丘のテロワールによって柔らかさや気品の高さを感じられるワインになるという。

登美 赤
過去の試行錯誤から登美の丘のプティ・ヴェルドが個性豊かな味わいを得られることが分かった

 よいプティ・ヴェルドは色が濃く、力強さを発揮しながら柔らかさ、上品さが感じられる。わるいプティ・ヴェルドは味わいが荒々しくて、垢ぬけない香りがすると語る。

 仮説としてこの味わいの差はフェノール化合物の成熟の差だと考えており、フェノール化合物の成熟をしっかり「待つ」ことが鍵とのこと。

 該当する期間はぶどうのphが高まり台風が多く発生する期間でもあり病気の罹患率が非常に高まるためどこまで収穫を待てるかがポイントになるという。栽培管理を徹底し、ぶどうが病気にかからない環境を作り上げることが重要と語る。

栽培管理を徹底し、フェノール化合物の成熟する時期をしっかり待つことが重要

 また、植え付け位置と系統別の特徴をとらえこれらの条件が生み出すぶどうの特徴のわずかな差をとらえて、ワインづくりに反映させているという。

系統ごとのわずかな差もとらえてワイン作りに反映させている

 醸造プロセスの改善も進めており、できるだけ果実を丁寧に傷付けず搬送することで果皮や種からの過剰な渋みを軽減しやわらかく仕上げる無破砕仕込や、垂直型圧搾機を導入しやさしく圧搾することでより高品質なワイン(果汁)のみを獲得するようにしているという。これらにより過去のワインよりも味わいの厚み、果実感の増しているという評価をもらっているとのこと。

新設備も意欲的に導入し、素材のポテンシャルを引き出している