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サントリーの日本ワイン「FROM FARM」、つくり手がこだわりを語る
2023年9月5日 20:05
- 2023年9月5日 取材
サントリーは9月5日、「SUNTORY FROM FARM」ブランドで販売するワインに関する説明会を開催した。
ワインカンパニー ワイナリーワイン事業部 事業部長の新村聡氏は、「サントリーのワインは昨年9月にFROM FARMというブランドに生まれ変わった。我々が皆さまにお届けする1本1本のボトルには、日本の自然、風土、畑に向き合い、匠の技と愛情を込めて作り上げてきたつくり手たちの物語が込められている」とした上で、国内外のコンクールでの受賞歴を紹介した。
同氏によれば、2023年1月~7月の同社の日本ワインの売上は前年比123%の6億円と好調に推移している。直近では「世界に誇る品質を目指したつくり手の挑戦の物語」と称して9月12日に新ヴィンテージを発売する予定で、9月16日~18日にかけてサントリー登美の丘ワイナリー(山梨県甲斐市)で開催されるワインフェスティバルやワイナリーツアーなどを通じて、その魅力を伝えていきたいとしている。
続いて登壇したサントリー登美の丘ワイナリー 栽培技師長の大山弘平氏は、同ブランドのフラッグシップワインとなる「登美 赤」に対するこだわりのポイントを紹介した。
大山氏は、「ワインのおいしさは、気候、土地、つくり手の3つの要素によってオリジナリティが生み出される。(ぶどうの)品種は、そのオリジナリティを最もワインに映し出す手段」だと説明する。
同氏が「登美 赤」で目指したは、“緻密で凝縮感のある強さ、やわらかさ、まろやかさのある味わい。自然な甘さ、ビロードのようなタンニン。上品さが表現されたワイン”だという。
こうした普遍的なゴールのイメージを持ちながらも、さまざまな環境の変化の影響を受けるぶどうを原料とすることから、1982年に最初のヴィンテージを作ってから品種の構成が変更されてきた。
当初は、カベルネ・ソーヴィニヨンがメインの品種として使用され、カベルネ・フランとあわせて使用されていたが、徐々にメルロの比率が高まっていき、近年ではプティ・ヴェルドが主に使用されるようになっている。
プティ・ヴェルドという品種については、フランス南西部を原産とする赤ワイン用のぶどうで、ボルドーでは補助品種として栽培され、濃い色合いやスパイスのアクセントとして数パーセントだけブレンドする形で使用されているという。
つまり、本来はかなりクセが強く、ワインのメインのぶどうとしては使いにくい品種のはずだが、登美の丘では、これを使いこなし、高く評価される赤ワインを作っているということになる。
大山氏によると、良いプティ・ヴェルドは、色が濃く、力強さを発揮しながら、やわらかさや上品さが感じられる一方、悪いプティ・ヴェルドは、味わいが荒々しく、田舎っぽい香りがするとのこと。
このため、いかに良いプティ・ヴェルドを育てるかが鍵になってくるが、こうした違いはぶどうに含まれるフェノール化合物の成熟の差によってもたらされるとの仮説の下、しっかり待ってから収穫することで、狙った味わいを実現できるようになってきたという。
同社では、標高500~600mの場所に土壌が異なる複数の畑が存在し、そこにフランスとニュージーランド系統の木を植え分け、複数の種類の台木を用いて育てることで、条件の違いが生み出す品質の小さな差を捉え、それぞれの個性を引き出すことで品質を高めてきた。
さらに、発酵タンクまでぶどうを傷つけずに搬送することで過剰な渋みを軽減する無破砕仕込や、もろみを崩さずにやさしく圧搾する垂直型圧搾機といった醸造プロセスの改善を図ることで、果実が持つ味わいの良い部分を引き出しているという。
こうしてプティ・ヴェルドをメインにしながらも、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロも使用されており、ブレンドする品種の特徴にあわせて役割を与えることで「登美 赤」の味わいが実現されているとのことだ。
大山氏は、「この10年で進化してきたプティ・ヴェルドで日本や登美の丘を世界のワイン地図に載せることが使命」だと語り、今後もその特徴を生かしたワインづくりに取り組んでいくことを宣言した。
続いて登壇したワイナリーワイン事業部 シニアスペシャリストの渡辺直樹氏は、津軽地方でのワインづくりを紹介。
渡辺氏によると、津軽地方といえばリンゴというイメージだが、実は明治初期にはワインを醸造し、ワイン用のぶどうの栽培を手掛けていた歴史があるという。しかし、その後、フィロキセラによる害虫被害が発生し、リンゴへと転作する農家が相次いだ。1980年代後半になり、サントリーが契約栽培を開始したことで、改めてワイン産地として歩み始め、現在に至っている。
津軽では、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、シャルドネの3品種が育てられているが、熟したリンゴを想起させる香りや充実感のある果実味、それを支える爽やかな酸味が特徴的だったことから、そうした個性が生きるスパークリングワインを作ることにしたという。
このため、従来はスティルワインのバランスを考えて収穫時期を決めていたが、近年はスパークリングワインに最適なタイミングで収穫しているほか、醸造においても房ごとプレスするホールバンチプレスで清澄度の高い果汁を得た上で、プレス液をキュベ、タイユに分け、マロラクティック醗酵を実施せずに別々に醸造することで、津軽らしい瓶内二次醗酵スパークリングの生産を目指しているとのことだ。