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三郎丸蒸留所、ブレンデッドウイスキーの新ブランド「SAB.」で世界へ

2024年12月6日 発表

三郎丸蒸留所のブレンデッドウイスキーの新ブランド「SAB.(サブ)」

 富山県の若鶴酒造は12月6日、三郎丸蒸留所の新グローバルブランドとしてブレンデッドウイスキーの「SAB.(サブ)」を立ち上げ、12日に国内外で新商品を発売すると発表した。

 代表取締役社長 兼 CEOの稲垣貴彦氏は、これまでの日本のウイスキー産業の歴史を振り返り、1980年代に国内市場がピークアウトしたが、近年はハイボールブームや朝ドラ効果、さらには海外市場での高い評価を背景に需要が回復し、国内の蒸留所の数も10年で10倍以上に増加していると説明する。

 輸出金額ではウイスキーが日本酒を上回る状況となっており、元々日本酒を製造する同社においてもウイスキーの売上が10年で60倍となり、2023年10月からの1年ではウイスキーのウエイトが78%まで高まっているという。

 しかし、急激な変化による歪みも生じており、同氏はジャパニーズウイスキーを産業として残していくには解決しなければならない課題がいくつかあると指摘する。

 そうした課題の1つとされるのが、国内外でさまざまなブランドが立ち上がっていくなか、市場が飽和してしまうという懸念で、同社としても蒸留所の独自性を表現しながら長期的な視点でグローバル展開を図る必要性があるとする。

若鶴酒造 代表取締役社長 兼 CEOの稲垣貴彦氏(中央)、T&T TOYAMA 共同設立者 シングルモルト通販 モルトヤマ店主の下野孔明氏(右)、樽職人の祝迫智洋氏(左)

グローバルで通用するブレンデッドウイスキーブランドを目指す

 その役割を担うことになるのが今回発表されたSAB.となる。稲垣氏は、日本ではシングルモルトウイスキーの価値が高く評価されているが、グローバル市場においては約25%に過ぎず、ヨーロッパにおいては約90%がブレンデッドウイスキーとなっていることから、「グローバルではまずブレンデッドで認知を拡大する必要がある」と語る。

 ただ、これまで同社ではさまざまな商品名でブレンデッドウイスキーを出しており、歴史はあるがブランドとしての知名度は高くなかった。今回立ち上げられたSAB.は、グローバル展開を見据えたブランドとなっており、ラベルにはカタカナの「サブ」を筆文字で描くことでロゴのような印象を持たせている。

 大手メーカーの商品の多くが2文字で表現されていることもあり、発音しやすく、覚えやすいことを意識し、こうしたネーミングになった。ラベルデザインについて、稲垣氏は「最初はアルファベットを筆文字で描いていたが、らしくないと思ってカタカナに変えた」と振り返る。

 ラインアップとしては、エントリーに位置づけられる「SAB. SUNSET RED」(700ml、3498円/200ml、1254円)、ミドルレンジの「SAB. NIGHT BLACK」(700ml、5390円)、2025年夏に1万本限定で発売する「SAB. OCEAN BLUE」(700ml、9900円)を用意。いずれもアルコール度数は46%となっている。

SAB. SUNSET RED
SAB. NIGHT BLACK
SAB. OCEAN BLUE

 稲垣氏によれば、従来商品との関連で言えば、「サンシャインウイスキー」がRED、「十年明」がBLACK、「THE SUN」がBLUEに相当するが、ピートにこだわり、スモーキーさをウリにしたウイスキーづくりに取り組んでいる同社の世界観を伝えていくため、今回の商品ではそうした特徴が一層強く表現されているという。

ジャパニーズウイスキーを作り続けられる産業構造の構築

 グローバルの視点ではサステナビリティについても重視されるようになってきていることから、環境に配慮した取り組みも強化。SAB.では、再生カレットを90%以上使用したボトルにすることで、一般的な瓶と比べて23%の軽量化と10万本あたり約13.5tのCO2削減を実現している。

 このほか同社では、プレヒートタンクや鋳造製のポットスチルを用いることで熱効率を高めたり、本社屋に太陽光パネルを設置したりすることで、CO2の排出量削減を行なっている。

 また、本場スコットランドでは、精麦、蒸留、樽工場、熟成など、分業体制が構築され、産業全体を支えるインフラがシェアされているが、日本では大手メーカーが垂直統合型で体制を構築していることから、小規模メーカーが参入しにくい状況にある。

 そこで、同社ではボトラーズ事業を展開する「T&T TOYAMA」を設立。パートナー蒸留所から原酒を買い付け、熟成させ、ボトリングする取り組みをスタートしている。T&T TOYAMAの共同設立者でシングルモルト通販 モルトヤマ店主の下野孔明氏によれば、2025年には最初の商品がリリースされる予定とのことだ。

ジャパニーズウイスキーを取り巻く課題に対する同社の取り組み

 これに加え、新たに樽の再生事業「Re:COOPERAGE(リクーパレッジ)」も開始する。

 国内外で蒸留所が急増した影響で、近年は樽の価格が高騰。大手メーカーにとっても悩ましい樽不足は、新興の蒸留所にとっては大きなコスト負担になっており、貴重な樽をメンテナンスしながら使い続ける工夫が必要になっている。

 Re:COOPERAGEでは、樽のリペア、リメイク、リチャー・リトーストを請け負うことで、小規模な蒸留所を下支えしていく方針。リチャーリングの際に樽の内側を削る自動樽削り機「バレルロール」を開発するなど、作業の効率化を図りながら対応していく。

Re:COOPERAGEでは、樽のリペア、リメイク、リチャー・リトーストを請け負う