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訪日外国人に「たまごサンド」がヒット、セブン-イレブンのインバウンド戦略
2025年4月30日 20:41
セブン-イレブン・ジャパンは4月30日、近年拡大している「インバウンド消費」に関する説明会を開催し、訪日外国人観光客に向けた商品展開や店舗における取り組みを紹介した。
日本政府観光局(JNTO)の推計値によれば、2024年の訪日外国人旅行者数は3687万人とコロナ禍前を上回り過去最多となった。万博の開催や円安も重なり、今後も増加が見込まれる。
「近くて便利」というキャッチコピーを掲げ、生活に密着した存在として国内需要に重きを置いてきたコンビニエンスストアにも、インバウンド需要の波は押し寄せている。
お土産としての免税品の販売に対応する店舗も約1700店あるが、それ以上に滞在中の「日常使い」の需要が急増しており、決済実績によれば前年比で2倍以上、売上規模としては免税販売の10倍以上になる。SNSなどを通じて日本のコンビニ商品の魅力を知り、ホテルや民泊で食べるものを買っていくのだという。
「たまごサンド」が人気、わさびや爪切りなど意外な商品も
マーチャンダイジング(商品政策)を担当する地区MD統括部 総括マネジャーの鷲野博昭氏は、外国人観光客から人気の高い商品として、「たまごサンド」を挙げた。
五輪取材のために来日した海外記者がSNSで取り上げたことをきっかけに注目され、2025年3月時点でも1日200個以上売れる店舗があるほど、訪日客に人気の商品として定着している。
また、日本の菓子の人気も高く、プライベートブランド「セブンプレミアム」の「チョコっとグミ シャインマスカット味」は単独で年間売上10億円を超える。海外でも高級フルーツとして知名度のある国産シャインマスカット果汁を使った商品で、お土産にも適した日本らしさのある菓子としてヒットした。
少々意外なところでは、「わさび」もお土産として売れているという。特別なものではなく、日本人も日常的に使うチューブ入りの商品だ。「爪切り」も隠れた人気商品で、Sサイズ451円/Mサイズ610円と手頃な価格ながら、切れ味の良さや爪が飛び散らない工夫など日本の爪切りの良さが口コミで広まっている。前述のたまごサンドにも当てはまるが、我々にとっては日常的な当たり前のものが新鮮かつ魅力的に映り、意外なヒット商品となるケースが多い。
一方、冒頭で触れたように、訪日外国人の「滞在中の日常使い」という役割から、海外での生活習慣に基づいた売れ筋商品が生まれるケースもある。その代表例はフルーツだ。
鷲野氏は、出張で新幹線に乗った際に「たまたま隣に乗ったインバウンドの方がおもむろにリンゴを丸ごと1個取り出してかじっていた」というエピソードを挙げ、「日本人が考える以上に、外国の方々は日常的にフルーツを食べる習慣がついている」と、習慣の違いを肌身で感じたうえで、異なるニーズに対応していく必要性を実感したという。
ここまでに挙げた人気商品はいずれも、インバウンド需要を織り込んで企画・開発されたわけではなく、国内向けの商品が思わぬ形で話題となり、いつしか外国人観光客の注目を集めていた商品たちだ。次の一手として、外国人観光客から人気の商品をさらにグレードアップした高付加価値商品の投入もテストしている。
たまごサンドの例では、定番のたまごサラダのほかに、ふわとろ食感のスクランブルエッグや出汁の旨味を感じられる卵焼きを追加した「たまご尽くしサンド」、半熟卵2個分を贅沢に使った「半熟卵2個分のたまごサンド」といった商品を一部地域でテスト販売する。
フルーツに関しても、定番商品として展開する「セブンプレミアム 皮むきリンゴ」や「セブンプレミアム パイナップル」のほかに、「セブンプレミアム フレッシュシャインマスカット(大)」(1400円)や「顔が見える大粒いちご(とちあいか)」(1600円)などのテスト販売が行なわれた。日本人が普段使いのコンビニでふと手に取るには少々躊躇してしまう価格帯だが、いずれも販売上位店舗では月間300個を超える実績を残した。
ヒット商品の起点は「若者」と「外国人観光客」
説明会の後半では、オペレーション情報 副総括マネジャーの吉村浩司氏が登壇。オペレーション情報とは、データ分析や現場における販売施策の提案といった支援業務を指す。
POSデータを分析したうえで販売実績から商品のラインナップや入荷数を決めていくという基本的な流れからすれば、一般論としては外国人より日本人、若年層より中高年層に売れている商品のほうが品揃えに反映されやすいと思われる。
しかし、人数・規模ではなく「影響度」という点で、若年層と訪日客の購買行動に注目していると吉村氏は語った。SNSでの情報収集を積極的に行なう点も両者の共通項であり、彼らのニーズを掴んで売り場に反映することで次第に他の層にも広まっていくということだ。
情報感度の高い若者から始まったブームが他年代にも広がっていく流れと同様に、外国人観光客に人気の商品をインパクトのある売り場展開でアピールした結果、日本人にも多く売れるようになったという。
一口にインバウンド需要と言っても、国によって文化や習慣、好みの違いがある。たとえば日本では取り扱いが少ない常温の牛乳を求める国があったり、日本らしい食品を買ってみる場合でも「韓国のオムクと日本のおでんを比べてみたい」といったように母国の食べ物と近いメニューが注目されるケースもあり、需要はまちまちだ。その点は各店舗とのミーティングなどを通じて、その地域にどこの国の観光客がどういった目的で多く訪れているのか、きめ細やかにニーズを把握している。
そして、外国人観光客が訪れる場所はもはや大都市圏や有名観光地ばかりではなく、全国各地に潜在需要があると吉村氏は指摘する。2024年度の決済実績ベースでは、日本国内のセブン-イレブン全体の99.4%にあたる2万1631店で外国人観光客による購入と考えられる実績があるというほどで、インバウンド施策の重要性は今後さらに増していきそうだ。