インタビュー

「ペットボトルはゴミではなく資源」~生茶がキリンの環境ビジョンをリードする理由

キリンビバレッジ 執行役員 マーケティング部長の山田雄一氏

 キリンビバレッジは、600mlサイズの「キリン 生茶」と「キリン 生茶 ほうじ煎茶」に再生PET樹脂を100%使用した「R100 ペットボトル」を採用し、3月中旬から販売している。2019年6月からは「キリン 生茶デカフェ」でもR100ペットボトルを採用している。

 同社としてなぜこうした取り組みを行なっているのか、また、なぜ生茶からこの取り組みをスタートしたのか、その背景を執行役員 マーケティング部長の山田雄一氏に伺った。

――まず生茶で「R100 ペットボトル」を採用した背景を教えてください。

山田氏
 大きいところから行くと、キリングループが「環境ビジョン2050」というのを制定しています。これは対外的にも発表させていただいているのですが、社会とともに心豊かな地球を次世代につなげていくことを目指しているものです。その大きな取り組みの1つとして、容器包装を持続可能に循環している社会を掲げています。

 この枠の中に入っていくのですが、いわゆるプラスチック廃棄物課題の解決に向けた取り組み方針として、「プラスチック・ポリシー」というものも出しています。2027年までに日本国内におけるPET樹脂使用量の50%をリサイクル樹脂にするということを目指しています。これが上位概念というか、前提ということになります。

 その中でキリンビバレッジは達成に向けて基盤ブランドの1つである「生茶」を環境フラッグシップ・ブランドと設定して、再生PET樹脂を100%活用したリサイクルペットボトルの取り組みを現在拡大している、という流れになります。

――生茶以外でもこうした取り組みを行なっていくのでしょうか?

山田氏
 そうですね。調達量とかいろいろな課題もありますが、まずプライオリティは生茶ということでやっています。当然、2027年までの実現に向けて取り組んで行かなければいけませんので、順次広げていくということになります。

ペットボトルからペットボトルへのリサイクル率はわずか12.5%

――ボトルtoボトルのリサイクルが進まない背景には何があるのでしょうか。

山田氏
 大きく3つほどあると思っています。

 1つは原料調達の課題です。日本国内のペットボトルのリサイクルは全体としては高く、90%弱となっています。ただ、この多くが食品トレイや衣類、輸出といった形で、一度は再生された資源として利用されるのですが、その後は焼却されることが結構多いという状況です。実際、ボトルtoボトルの比率は12.5%程度(2019年時点での試算)と言われています。原料として循環させていくには、そもそも総量が少ないという実態があるということです。

 若干余談にはなりますが、消費者の皆さんは非常に高いレベルで分別をなさっているので、皆さん「当然、ボトルtoボトルになっている」という感覚でおられるのだと思います。この12.5%という比率はあまり知られておらず、これについての認知度でいうと20%というのが現状です。

 つまり、持続可能な再資源化といったところについては、そもそもの構造が大きな課題になっているということです。分別された家庭用以外の回収されている廃ペットボトルの一部には結構ゴミが混在していたりするので、良質な廃ペットボトルの安定的な確保が困難であるというところも現実問題としてあります。

 どうやって解決していくのかというと、これからお話しする内容と相互依存しているな、という気はするのですが、現段階で解決策についていろいろなことを検討しており、詳細を公表できるレベルにないのですが、まずはこの原料調達の課題に向き合っていかなければいけないと考えています。これは弊社だけでなく、さまざまな企業もそうなのではないかと見ています。

2027年までに「ケミカル・リサイクル」の実用化を目指す

山田氏
 もう1つが技術課題で、我々も今、従来からの「メカニカル・リサイクル」という技術でやっているのですが、実は除去が難しい混在成分というものもあり、繰り返し再生していると樹脂の品質がどんどん低下していくと言われています。ですから、どこかで焼却しなければならない、新しいものを調達しなければならない、ということになります。

 実は、ここは解決策を見出していて、メカニカル・リサイクルを継続しつつ、三菱ケミカルさんとキリンで「ケミカル・リサイクル」という手法を開発しています。廃ペットボトルを分子レベルまで分解して純度の高いPET原料に再生するということで、ある意味、半永久的にリサイクルできるという技術です。このプロジェクトは、昨年の12月から開始し、2027年までに実用化していくという時間軸で取り組んでいます。これが実用化されていくと、ペットボトルを資源とした循環型社会の実現がかなっていく、と考えています。

メカニカル・リサイクルの課題
ケミカル・リサイクルのメリット

 最後は、やはりコストが上がるという課題があります。もちろん、社会課題に対して向き合っていくという姿勢は企業として持たなければいけないのですが、上がったコストを吸収していくための施策にバリューチェーン全体で取り組んでいく必要があります。

 これまで、何となく社会に対してはいいけど、こんなにコストがかかったり、こんなに労力がかかったりするんだったら……というところは世の中全般にあったかと思います。どうやって課題を解決していくかというと、特にマーケティング面では、今の時代、特にコロナ禍になってから加速されたと思うのですが、SDGsの認知がものすごく広がっています。調査レポートなどを見ると、直近ではSDGsの認知が50%を超えています。指数関数的に伸びているというようなトレンドです。

 小学校でSDGsが義務教育化されているとか、そのような流れがある中、ペットボトルを資源とした循環型社会を作っていくことが次世代の地球にとっていいことなんだ、という風にご理解いただくことで、ビジネスを成長させていくチャンスになり得るのではないかと思っています。例えば、10年前と比べると意識は全然違うと思いますし、Z世代のお客様はSDGsネイティブで、そういう方々が10年後に消費の真ん中に来る時というのは、むしろこうした取り組みをちゃんとやっていないと支持されるブランドにならないという仮説を持っています。

 もちろん、全体としてコストアップをどう吸収するかということにも取り組んでいきますが、マーケティングの面では、よりよい社会に貢献していくという姿勢をお客さまや社会に見せていくことで共感をいただき、商品の拡大につなげていくというアプローチが課題解決になり得るのではないかと思っています。

――消費者として、きっちり分別して協力したいと考えた時、ケミカル・リサイクルが実用化された際にどうすればいいのでしょう? 現状、キャップを外したり、ラベルを剥がしたり、洗ったりしていますが。

山田氏
 途中までのリサイクル過程は同じなので、今までどおり分別していただくことには変わりありません。ただ、環境への意識が高まっていくと、これまでデザイン重視のラベルでアピールしないとブランドになり得なかったのが、ラベルの幅を短くして、これは環境に配慮したからですという理解が進んでいくと、そういう商品をご購入いただけるようになると、当然、二酸化炭素の削減にもつながりますし、プラスチック問題の解決にもつながっていきます。だんだんそのような形になっていくと考えています。

ペットボトルを“ゴミ”と見るか、“資源”と見るか

――実際、売場においては、レジ袋の有料化が始まり、さらには環境大臣からコンビニ弁当のスプーンやフォークの有料化についての発言もあったりと、プラスチック自体への風当たりが強いという、この一連の流れをどう見ていらっしゃいますか。

山田氏
 まず、世の中全体の大きな流れとしては、ネガティブだけではなく、ポジティブな面もあります。私見ではありますが、今まで環境への取り組みやCSVといったものは、どちらかというと資本市場に対してインパクトがあったもので、生活者の視点ではからはやや遠いものだったのではないかと思います。

 そういう意味では、自分の生活動線の中でレジ袋が有料化されたことは、1つの兆しとして世の中はこういう方向に向かっているのだな、ということを普段の生活の中で認識できる機会になっています。特にコロナの時代でもありますし、今まで自分の生活に目を向けていたところに、広く世の中を見る機会になって、そういうことが複合的に生活者にとって環境問題が身近になっていく効果がある、という風にポジティブに捉えています。

 一方でプラスチックに対する風当たりの強さというのは、世界中でそうだと思うのですが、大きな前提として、ペットボトルをゴミと見るか、資源と見るかということです。私たちはこれを資源として見ています。なので、これが世の中のゴミを増幅していくと定義するのであれば、容器を変えるというのが王道のやり方だと思います。

 しかし、私たちはこれを資源だと思っていますし、だからこそ、この資源が循環していく社会を目指しています。ですから、これをご理解いただけるまで、メーカーとして生活者の皆さまや社会とコミュニケーションしていかなければいけませんし、言うだけでなく、その取り組みを拡大していくことが重要なのだと思っています。

――ペットボトルのリサイクル以外での最近の取り組みについても教えてください。

山田氏
 例えば、生茶について言えば、3月からになりますが、ラベルレスの商品を一部量販店やECで販売してみたりしています。環境への優しさや利便性が評価されて、お取り扱いいただいている店舗では、従来の生茶のプラスオンの売上になっているということなので、次年度に向けても取り扱いを広げていきたいと考えています。

 それから紙容器もあるのですが、FSC認証紙というものがあり、2020年11月にキリングループの全ての紙容器でFSC認証の使用率100%を達成しています。このような環境に優しい紙容器を継続していくということも重要だと思っています。

 それ以外にも物流面やバリューチェーンのいろいろな場面でそれぞれの取り組みを行なっています。

R100 ペットボトルの「キリン 生茶」と「キリン 生茶 ほうじ煎茶」
ラベルレス版

――飲料は重さがあるので、量が多くなったり、距離が伸びたりすると、運ぶ際に二酸化炭素の排出量が多くなります。最近はお店で買うだけでなく、ネットで買ったり、サブスクリプションのような取り組みもあったりします。いろんな物流の形がある中で、マクロの視点でどんな流通のさせ方が効率的だと見ていらっしゃるのでしょうか。

山田氏
 物流のところでの取り組みというのは、解決法が1つではなく、輸送距離の問題もあれば、積載効率の問題もあれば、いろんなことがあります。1つ考えているのは、容器の形状は検討していかなければいけないと考えています。やはり積載効率がいいに越したことはないですし、1回で多くのものを運べるというのはとてもいいことだと思います。

 各社取り組んでいると思いますが、重たいものの代替となるようなアイデアや容器についても1つの潮流です。こういったことも検討の範囲には入っています。

常に進化する生茶

――容器の話も面白いですが、肝心の中身についてはいかがでしょう?

山田氏
 本当に飲料というのはおいしさが第一だと考えています。そこはリニューアルの度に最大限の努力をして、よりおいしく作っていくということはやっています。

 我々はブランドパーパス、社会的存在意義を大事にしているのですが、生茶の場合、「お客さまのココロとカラダをお茶の生命力でおいしく満たす」というのが存在意義になります。その存在意義を支えているのが、豊かな自然に育まれた生茶葉がもたらす甘みや香り、そこから来るすっきりしたおいしさ、こういうものが生茶葉の生命力から来るという図式になっています。

 環境フラッグシップとして生茶を選択した時も、そこの親和性を意識しました。このブランドとして環境にお返ししていかなければならない、より持続的にこの味をお客さまに届けるために、こうした取り組みを活発化させなければならない、というのがモチベーションでした。

 そういった意味合いで、生茶の良さというのは、生茶葉がもたらすもので、味覚的にも体感していただける、ココロとカラダを満たしてくれるというものが常にモチーフになりますので、よりおいしく感じていただけるような革新を続けていますし、今も当然やっています。今回は中身は変えていませんが、次のリニューアルにご期待いただければと思います。

――コロナ禍においてテレワークが進み、自動販売機での購入機会が減少しているのではないかと思われますが、実際のところはどうなのでしょう?

山田氏
 やはり自動販売機は人流の影響を大きく受けますので、緊急事態宣言が長期化すると、販売的には厳しい状況になります。テレワークの普及というのは、程度の問題はあれ、不可逆なものだと思います。ですから、自動販売機のチャネルが飛躍的にV字回復していくとか、次世代の成長源になるというのは、ちょっと考えにくいというところで、大事なお客さまとの接点として活用していくとともに、合理化を図り、ちゃんとビジネスとして継続できるように運用していくということが課題になると思います。

――逆に今、販売チャネルとして伸びているのは、どういったところになりますか。

山田氏
 一つはドラッグストアです。これは世の中の健康志向の流れをくんでいるものです。量販店も、人流が抑えられている中でスーパーでまとめ買いするという形で受け皿になっていますから、堅調です。それからECです。まだ飲料としては規模感はそんなに大きくはありませんが、サブスクリプションやケースの配達なども含め、伸びてきています。

――生茶のマーケティングにおいて、直近で注力しているのはどんなことになるのでしょうか。

山田氏
 今年の生茶のタグラインは「生ってやさしい、ずっとおいしい」なんですが、弊社の基盤ブランドはCSVを主軸としたブランド戦略を基本線としています。これからのブランドは、より良い社会に向けて何かアクションを起こしていかなければいけない、そういうことをやっていかないとお客さまにご愛顧いただけないという強い信念があります。キリングループの一部として取り組んでいるという文脈と、ブランドとして成長させ、次世代にも愛されるブランドになっていくためにも、こういった活動はマストだと考えています。

 たしかに環境問題への取り組みをマネタイズしていくことは難しいのですが、やり続けるべきだと思いますし、時間をかけてもやっていくことが大切です。弊社グループのCSV活動には、健康と地域社会・コミュニティと環境という3本柱があります。生茶は健康のリーディングブランドでもあり、そもそも無糖の商品でもありますし、自然由来の商品でもありますし、こういったところをしっかりやっていきます。

――生茶ブランドとして、機能性表示食品を出すとか、飲料じゃないものを出すとか、そういった可能性もあるのでしょうか?

山田氏
 すべて選択肢の中にはあります。そういったものは常に水面下のラボ環境下でお客さまの反応をテストしています。ただ、常に健康であるか、環境に優しいか、という軸がブレないように意識しています。

――最後に読者に向けて一言いただけますか。

山田氏
 一番お伝えしたいのは、たとえ少しずつでも生茶はより良い社会に貢献できるように、環境の問題に対する取り組みを着実に広げていく努力をしていきたいということです。環境に優しく、おいしいお茶として、皆さんのココロとカラダを満たしていくブランドでありたいと思っていますので、これからの活動にもご期待ください。

本誌のオンライン取材に笑顔で応じる山田氏