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ソフトバンク、魚の鮮度やうまみ指標を確立するプロジェクト開始。美味しい魚・冷凍に向いた魚の定義を明確に

2023年12月13日 発表

ソフトバンク「魚の品質規格標準化プロジェクトに関する説明会」開催

 ソフトバンクは魚の価値向上を目指して、魚の鮮度やうまみの測定手法の確立に向けた品質規格標準化プロジェクトを開始し、赤坂水産、愛媛県産業技術研究所、フィード・ワン、ライドオンエクスプレスの5社でコンソーシアムを設立したことを、同プロジェクトに関する説明会で発表した。

 魚の価格は魚種と重量で決められており、果物の糖度や牛肉の等級のような統一された品質規格はない。しかし、魚の品質基準の一つである鮮度「K値」は簡単にリアルタイムで測定する手法が確立されていないうえ、魚のうまみに対して影響がある遊離アミノ酸は特定されていない。

 また、物流・運送業界の「2024年問題」(ドライバーの労働時間に上限が課されることで発生する問題)により、長距離での鮮魚の運搬が困難になるという懸念もある。

 これらの課題を解決する1つの手法として、美味しい冷凍魚を品質を落とさずに輸送することが挙げられる。今回設立されたコンソーシアムでは、美味しい魚の定義と、冷凍に向いた魚の定義を明確にすることで、その分析結果を基に「魚のうまみの新たな規格作り」「美味しい冷凍魚のための規格作り」「リアルタイムで魚の鮮度、うまみを測定する新しい手法の確立」を行ない、魚の品質規格標準化に向けた研究開発を進める。

各社の役割

赤坂水産: 冷凍に適した魚の育成方法や締め方、加工、冷凍タイミングの検証
愛媛県産業技術研究所とフィード・ワン: K値や遊離アミノ酸などの化学的分析からうまみ成分の検討
ライドオンエクスプレス: 官能テスト方法および指標作りのためのアドバイス
フィード・ワン: 冷凍に適した養殖魚の飼養管理の取り組み、得られた知見を活用した、冷凍魚に適した専用飼料の開発
ソフトバンク: ポータブル分光センサーを用いたリアルタイムでの鮮度や、うまみ成分の特徴抽出のための機械学習モデルの提供、冷凍に適した魚の基準の明確化

 将来的にはすべての魚種について規格作りと測定方法の確立を行ない、日本の魚の品質規格標準化を進め、高品質な魚の国内外への流通拡大により日本の水産業の活性化につなげることを目指すとしている。なお、同プロジェクトは愛媛県のデジタル実装加速化プロジェクト「トライアングルエヒメ」の2023年度の採択案件となった。

1次産業の課題解決により、持続可能な社会の実現を目指すソフトバンク

 ソフトバンクは持続可能な社会の実現を目指して、1次産業の課題解決のためのプロジェクトや研究を行なってきた。今回、取り組むのは養殖のスマート化プロジェクトだ。

 世界では紛争やテロ、パンデミック、インフレ、大気汚染などを背景に、食糧安全保障が脅かされている社会課題がある。日本では食料自給率が低下したうえ輸入依存の状態で、1965年と2020年を比べると魚介類、肉類ともに5割程度下落している。

 日本の水産物生産量は漁業、養殖業ともに微減の傾向が続いているが、世界の水産物生産量を見ると、漁業は横ばい、養殖業は急激な成長が続いている。

 漁業は天然資源にも大きく左右され、計画的な漁獲量を確保するのが難しい。一方養殖業は計画的な安定生産が可能なため、今後注力していくべき産業として、世界では養殖業が成長している。

ソフトバンク株式会社 IT統括IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 室長の須田和人氏

 ソフトバンク IT統括IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 室長の須田和人氏は「養殖のスマート化プロジェクトで、生産、流通、輸出の3分野に注力して、今までにないような仕組みを作り、産業の再定義を目指す」と述べる。

給餌や漁獲量の推定・制御が「勘」「経験」「度胸」といった「KKD」に頼るものからデータを基にしたデータドリブン経営へ

 例えば、人が目視で魚の数を数えると10分弱だが、AIで数えると10秒もかからない。また、須田氏は「コストを抑えてリスクも下げるためにテクノロジーが重要。水産業でAIの導入が進んでいないのはデータがないため」と語り、CGシミュレーションでAIが学習するデータセットを生成して、コアテクノロジーの開発を行ない、養殖業の効率化と生産性向上を図るとしている。

「美味しい魚」「冷凍に向いた魚」の定義を明確化する「魚の品質標準化プロジェクト」

「魚の品質標準化プロジェクト」は、魚の規格を魚種と重量以外の値付け根拠で再定義することで、「美味しい魚」「冷凍に向いた魚」の定義が明確になる。これにより、生産者は魚の単価が上がる根拠が得られ、消費者は安心して自分好みの美味しい魚が買えるメリットがある。

 須田氏は「同取り組みはソフトバンク1社ではできないと思っている」と述べ、成功モデルを海外などへも輸出することで、世界の食卓に安心とジャパンクオリティを届けられると展望を示した。

日本の水産物生産量が伸びない3つの理由

赤坂水産有限会社 取締役 赤坂竜太郎氏

 赤坂水産 取締役の赤坂竜太郎氏は、日本の水産物生産量が伸びない3つの理由について、養殖も天然資源に依存していること、多くの魚種において安定的に飼育可能な海域が限定的なこと、増産しても日本と韓国でしか売れないことを挙げる。

 養殖のマグロ、ブリ、カンパチの多くは天然の稚魚から育成しており、サーモンやホタテは水温15℃以上で命の危機、マグロや青物は水温15℃以下の育成が困難という。天然資源への依存度が低く、広い海域で安定的に養殖が可能な魚は「マダイ」ということで、まずはマダイの鮮度、栄養分析を行ない、マダイにおける冷凍魚のための規格作りと、その測定方法の確立を目指す。

 赤坂氏は生産者が取り組むべきこととして、「冷凍魚がどうしたら活魚(生きた魚)以上に美味しくなるかを研究して、消費者の趣向や物流を鑑みた味、特徴など市場の意見を聞いていかなければならない」と述べた。定量化された規格を用いれば、それで作ってほしいと産地へ伝えることができる。AIが市場の意見を言語化し、市場と産地をつなぎ、AI技術によるコミュニケーションが加速すると熱く語った。

魚の鮮度と美味しさは必ずしも一致しない

ソフトバンク株式会社 IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 担当部長 石若裕子氏

 ソフトバンク IT&アーキテクト本部 アドバンスドテクノロジー推進室 担当部長の石若裕子氏は「魚の鮮度と美味しさは必ずしも一致しない」と語る。

 2022年に制定されたJAS規格の「K値」(科学的な鮮度評価基準で、ATP[アデノシン三リン酸関連物質]の含有量がベース)は、鮮度のみを測定するが、魚の美味しさには鮮度+うまみが必要となる。しかし、魚のうまみの定量評価は存在していないという。

 魚のうまみの評価方法はLabテスト(破壊検査)、NIR-Sensor(非破壊検査)、官能テスト(人の五官による評価)で行なう。正解データを基に機械学習モデルを生成し、魚のうまみの規格を作る。

 魚の鮮度とうまみをハンディセンサ(分光センサ)を使って簡単に計測する手法を確立し、魚のうまみの規格を作ることができれば、魚を締めるコスト、輸送コストから見た最適なフローの定量的な評価、食べ方による最適なフローの定量的な評価、食べ方や冷凍に向いた餌のやり方の最適化が実現される。

 説明会最後に、同プロジェクトはソフトバンクのプラットフォームを使うことで日本の水産物生産量を増やし、水産業の活性化、ひいては日本経済の活性化に寄与したいと須田氏は締めくくった。