突撃!グルメ探検隊

進化する味の素冷凍食品の冷凍餃子、フライパン騒動の先に見る夢

 味の素冷凍食品は、6月16日に自社の冷凍餃子が張り付いてしまうフライパンの募集を開始。当初、6月30日まで募集する予定だったが、19日の朝には1000箱以上のフライパンが届き、あまりの反響の大きさに、この日で受付を終了することとなった。

 同社によれば、これまでに2000個を上回る数のフライパン入りの荷物が届いており、1箱にフライパンが5~6個入っていることもあるという。同社として最大でも1000個くらいを見込んでいたなか、そこに2000個である。

 まさに“初夏のフライパンまつり”と言える状況だが、こうしたドタバタの裏側で何が起きていたのか、戦略コミュニケーション部 PRグループ長の勝村敬太氏と戦略コミュニケーション部 企画・管理グループの福原玲子氏に伺った。

すべては1件のツイートから

 同社によると、きっかけは5月11日にTwitter上に投稿された一般の方のツイートだった。フライパン一面に冷凍餃子が張り付いてしまった写真が話題となり、これが日頃からエゴサーチしているという同社のTwitter担当者の目に留まった。どうリアクションすべきかを社内で検討した結果、フライパンを預かって原因を究明しようとなり、翌12日の夜に引用リツイートの形でその旨を返答。

5月12日に公式アカウントがまさかの返答

 そんな最中にも餃子が張り付いたフライパンの写真が続々と投稿されていたが、同社が返答したことで「味の素が本気を出した」と話題になり、さらに多くの人の目に触れることになった。

 そこから約1か月、同社の研究開発部門では、なぜここまで張り付くのか、再現テストを行なうなどして検証を進めていた。その結果、パッケージ裏の焼き方説明に「コゲつきやすいフライパンは、少量の油をひいてください」「中火で約5分蒸し焼き」と記載していた部分を、「大さじ1程度の油をひく」「弱火で約10分蒸し焼き」のいずれかに置き換えることで、張り付きを改善できることを確認。それを6月16日に案内することにした。

 しかし、検証を行なうなかで、同社の冷凍餃子の研究魂が燃え上がっていく。これが前述のフライパン募集につながるのだが、それもそのはず、同社には現在に至るまで50年にわたる冷凍餃子改良の歴史があった。

人々の生活スタイル・嗜好にあわせて進化してきた冷凍餃子50年の歴史

 同社が冷凍餃子を発売したのは1972年。以降、“永久改良”を掲げ、味覚やパッケージデザインをリニューアルしながら販売を続けてきたが、1997年に「油なし」で焼けるという大きな冷凍餃子革命が起きる。

戦略コミュニケーション部 PRグループ長の勝村敬太氏

 勝村氏は、「これまでの50年で50回以上の大小さまざまな改定を行なってきた。単純においしくするというだけでなく、消費者の生活の実態を調べて、環境にあわせる工夫を行なっている」と語る。最近で言えば、表面がコーティングされたフライパンが普及するとともにIH調理器の導入も広がってきており、こうした冷凍餃子を取り巻く環境の変化にも細かい仕様変更で対応しているのだとか。袋を開けやすくしたり、トレイにミシン目を入れて分割しやすくしたりする改良もその一部だ。

 油なしを実現した際には「これは便利になった」と高く評価されるも、「水の加減が難しい」という次なる課題を指摘する声が聞こえるようになってきた。実は、同社の冷凍餃子の場合、中には火が通っており、少ない水でも調理できるように設定されていたのだが、それまでの「餃子は蒸し焼き」というイメージのせいもあり、水を多く注いでしまい、フニャフニャの餃子を作ってしまう家庭が多かったようだ。

 そこで同社ではトレイに最適な水の分量が分かる目盛りを付けるも、思いの外これが活用されず、2012年に「水なし」で焼き上げられる改良を加えた商品を発売。冷凍餃子の歴史における第2の革命となった。

 ところが、まだまだうまく餃子を焼けない人もいた。次なる課題は「火加減」だった。とくに「中火」の加減が人によって異なることが分かった。「まさか、そんなことは……」と思いながらも、同社で調べてみると、ガス台のメーカー、さらに都市ガスとプロパンガスなどで、ツマミを真ん中にしたときの火の強さが異なることが確認された。それまではパッケージ裏面の焼き方には、「中火」をイラストで説明していたが、「炎の先がフライパンの底に届く程度の火加減」という説明書きとともに、写真を掲載することにした。

 これらの取り組みにより、家庭で冷凍餃子を誰もがきれいに調理できるように改良を一歩ずつ進めていった。それと並行し、時代とともに変化する嗜好にあわせて、中具の肉を増量したり、国産の肉・野菜へ原料を変更したり、おいしさへのリニューアルも重ねていった。勝村氏によれば、羽根についても時代とともに嗜好が変わるため、「現在の商品は、最初の頃のものより、軽くてサクッという音がする」という。

味の素冷凍食品の冷凍餃子の歴史

集まったフライパンの行方

 が、しかし、だ。1件のツイートをきっかけに、実は冷凍餃子の皮をフライパンに盛大に張り付け、「油なしで作れるって書いてあったのに……」と涙を流しながら中の具が丸見えになった餃子を食べている人が予想以上に多かったことが明らかになった。

 50年にわたって冷凍餃子を進化させてきた同社としては黙って見ていることはできず、今回の張り付くフライパン募集に至った。

 では、今回集められたフライパンはこの後どうなるのか。

戦略コミュニケーション部 企画・管理グループの福原玲子氏

 福原氏によると、材質や大きさ、コーティングの劣化の度合いなどでフライパンをカテゴライズするところから着手していくという。

 同社の第一印象としては、想定以上に使い込まれたフライパンが届いているとのこと。フライパンメーカーからは、おおよその交換サイクルは1年に1回、少し高級なもので2~3年と聞いていたが、明らかにそれ以上の期間、大事に使われてきたであろうフライパンが集まってきているそうだ。

 福原氏は「正直、コーティングが劣化してダメージがあるフライパンといっても、そこまでは想定していなかった」としながらも、冷凍餃子のリーディングカンパニーとして「もう一歩踏み込んで、何かできるのではないか」と考えたという、新たな宿題に正面から向かっていく同社の姿勢を示す。

 ただ、「結果が見えてくるのは2~3年後」(勝村氏)となる見通し。それだけ難しい研究に挑戦しようとしているということだ。

目指すのは誰でもきれいに焼けること

 同社では、電子レンジで作る冷凍餃子も20年以上の開発期間を経て商品化しているが、「やっぱり餃子はフライパンで作った焼き立てがいい」という声が多いという。最後に自分の手で焼き上げることで、自分の料理になり、満足感が得られるという“体験価値”がそこにあるからだ。

現在の冷凍餃子のパッケージ裏面に記載された焼き方の説明

 そもそも、なぜ餃子の皮がフライパンに張り付くのかというと、「皮の原料となっている小麦粉のでんぷん質やたんぱく質が加熱によって粘着しやすくなるため」(勝村氏)だという。

 一方で、現在の商品のウリの1つとなっている「羽根つき」の羽根の部分は、フライパンにくっついて広がり、焦げ目がつくことでパリッとした食感を実現しているが、この部分の剥離性をどう確保するかは、これまでも課題になってきた。

 今回の挑戦は、皮の部分を含め、コーティングが劣化したフライパンからの剥離性をいかに確保していくかに関する研究と言える。

 福原氏は「(冷凍餃子をうまく焼ける)オススメのフライパンを教えてください、とよく言われるが、メーカー・大きさ・材質などを問わず、一般的に流通しているフライパンできれいに焼けるというのが目指すところ。そのために商品をリニューアルするのか、最適な調理方法の研究を深めていくのかをこれから検討していきたい」と心を燃やしている。

味の素冷凍食品の冷凍餃子
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