突撃!グルメ探検隊

運輸会社がなぜ? 冷凍の魚惣菜をオンライン販売する鴻池運輸の「魚匠えびす」

2024年3月12日 取材

関西支店 営業部 部長の西川英男氏(左)と関西支店 大阪木津営業所 所長の田中勝也氏(右)

 鴻池運輸は、冷凍の魚惣菜をオンラインで販売する「魚匠(うおしょう)えびす」を運営している。聞けば、単なる地方グルメの取寄サービスではなく、自前の工場を立ち上げ、商品企画も自社で行なうなど、かなりの本気ぶり。運輸会社がなぜ? という疑問が湧くが、担当者に話を聞いてみた。

 関西支店 営業部 部長の西川英男氏によると、同社がこの事業を立ち上げたのは2019年4月。地方の卸売市場が危機的状況にあり、活性化支援の要請を受けたのがきっかけだった。物流のイメージが強い鴻池運輸だが、食品メーカーの工場のラインの運営も手掛けており、同社ならではの形で魚に付加価値をつけ、事業化にチャレンジすることにしたという。

鮭の照焼

 事業を立ち上げるにあたっては、仕入れのプロや元公邸料理人をヘッドハンティング。丁寧に骨を取り、手間暇をかけて調理した高い品質と、塩分濃度が高いシャーベット状の冷媒を用いたハイブリッドアイス急速冷凍技術を武器に市場に参入した。

和食だけでなく洋食のラインアップも用意されている

 当初はB2Bの業務用市場をターゲットにしていたが、コロナ禍でうまく行かず、個人向けのEC事業に方向転換。30~40代の酒のお供を想定していたが、実際に売り出してみると、湯煎か電子レンジで戻すだけという手軽さもあり、50代以上のシニア世代にウケたのだとか。

 田中氏は「魚=健康で、食べたいけど面倒くさい。職人が一つ一つ骨を取り、別のスタッフが3回チェックしている。冷凍食品なので、賞味期限が半年~1年と長く、保存料や添加物もほとんど入っていないので安心・安全」と、この世代に受け入れられた背景を推測する。当初は月10万円ほどだった売上は、年商6000万円まで拡大。2年後には1億円を目指すという。

 同氏が差別化のポイントと語るのは、その味わい。魚をはじめとする生鮮食品は、ゆっくりと凍らせると細胞の中にある水分が膨張し、細胞壁を破り、それが解凍時にドリップとして流れ出ることで、おいしさが損なわれてしまう。そこで、同社では全国に10台ほどしかないというハイブリッドアイス急速冷凍技術を導入。マイナス21.3℃で瞬時に凍らせることで、できたての風味を閉じ込めている。

工場の外観
ハイブリッドアイス

 おいしさの追求は調理工程も同様で、オートメーション化は行なわず、専属シェフが監修したレシピを職人が再現。焼き魚では、時間が経つとふっくらとした食感が失われてしまうため、スチームで蒸し焼きにし、皮目をバーナーで炙ることで、ジューシーな味わいを表現している。

 昨年には新型コロナが5類に移行したこともあり、今後は当初思うように行かなかった業務用市場へのアプローチも強化していくという。関西支店 大阪木津営業所 所長の田中勝也氏によれば、実は、すでに某ホテルの魚を使った洋食を任せられているほか、2月からはオフィスグリコの魚バージョンとも言える「職場でえびすプラス」をスタート。同社が空港内で地上支援業務を行なっていることもあり、調理や廃棄のコストに敏感な機内食やホテルなどへの供給を目指していく。

 ちなみに、西川氏のイチオシは「ライスバーガー」、田中氏のイチオシは「真鯛の昆布〆」だそうだ。

西川氏イチオシの「ライスバーガー」
田中氏イチオシの「真鯛の昆布〆」

 個人向けのECサイトでも、4月から季節によって内容が変わるシェフのおまかせアラカルトなどが楽しめるサブスクリプション型のサービスも開始する予定とのことで、運輸会社のチャレンジはまだまだ続いていきそうだ。