突撃!グルメ探検隊
京セラがアレルギー対応の食品販売サービス「matoil」に挑戦する理由
2024年5月1日 11:00
京セラというと、情報通信機器や電子部品の印象が強い会社だが、食物アレルギーにフォーカスした食品販売サービス「matoil(マトイル)」を展開している。今回は、同サービスの事業化を目指す経営推進本部 本部室 Sプロジェクト責任者 兼 matoil開発課責任者の谷美那子氏に話を聞いた。
――どんな経緯でmatoilを立ち上げられたのでしょうか?
2018年に社内のスタートアッププログラムが始まり、社内公募でアイデア募集があったんですが、約800名の応募があり、その中の最後の3つに残り、2020年の4月から専任となり、そこから1年半ほど検討させてもらい、2021年10月にサービスインをして、2年半ほどになります。
元々社内のスタートアッププログラムが、社員1人が1つのアイデアを持ち、選考を通過したら、それを実際に事業として立ち上げる活動をしてもいいよ、というもので、とくに今やっている事業とも関係なくてもいいし、自分が個人として課題だと感じるものをテーマにということだったので、私自身、アレルギーがあるということで食物アレルギーをテーマに始めさせていただきました。
――どんなサービスなのでしょう?
アレルギーって、一人ひとり違うんですよ。何か決まったものを作れば、みんなに食べてもらえるというわけではないというところがあり、私たちは最初、一家族ずつを単位として、その方たちが絶対食べられるような食事を作るオーダーメイドから始めました。だんだんとラインアップが増え、今はオンラインショップに200種類以上の商品が載っています。
昨年、新型コロナが5類に移行し、修学旅行での食事について相談をいただくようになりました。施設側もあまりに重度な子だと受け入れるのが難しい、保護者も仕事をしていてついて行くのも難しいとなった場合、私たちが食事をお届けするということをやっています。先日、FOODEXという展示会に出展したのですが、ホテルやレストランなど、受け入れる施設からの反響も大きく、商談が進んでいる状況です。
――どのようにして個別に対応しているのでしょうか。
個別対応は簡単な話ではなく、とても複雑に入り組んでいますので、私たちとしては、ある程度のベースとなるパーツを用意しています。例えば、ピザの場合、生地があって、ピザソースがあって、その上に具材があります。それぞれにアレルゲンを避けるパターンを用意し、組み合わせることで、どんな人にも対応できるようにしています。
――そこは電子部品メーカーらしい発想ですね(笑)。
私は部品に関わったことはないんですが、携帯電話をやっていたときはGUI担当だったので、1万パーツくらいを扱っていました。そういう意味では、全部パーツとして見ているところはあるかもしれませんね(笑)。
――商品としては調理済みで、電子レンジや湯煎で温めるだけなんですね。
そうです。最初はアニバーサリーミールキットといったオーダーメイドのコース料理から始めました。普段、一生懸命料理を作っているお母さんたちが、例えば自分の誕生日くらいはシェフが作ったご飯を簡単な調理で食べたい、お子さんと一緒に作りたいけどイチから準備するのは大変、みたいなシーンでご自宅にお届けする形でお使いいただいています。
レストラン(東京都世田谷区上北沢にあるmatoil factory)の場合は、この場所を使っていただき、お子さんと一緒に作っていただいたり、なかなか外食に行けない方に楽しんでいただいたり、いろんなご家族に集まっていただいての体験イベントなども開催しています。
オンラインショップで販売している商品は、基本的に冷凍でのお届けになっており、デザートだったり、ピザだったり、冷凍保管していただいて、温めればすぐに食べられるものになっています。
修学旅行の対応も行なっておりまして、受け入れる施設のオペレーションにあわせて、電子レンジしか使えないというところにはレンジで温められるお弁当箱に入れてお届けするというようなことも行なっています。
レストランやホテルといったB2Bのお客さまの場合も、オペレーショににあわせて、こういうアレルギーの方が来たら、この1食をまとめて出す、というようなものを納品させていただいたり、パンや麺といった素材だけを提供させていただいたりしています。
――使用できる素材に制約があると、味わいへの影響が気になるところです。
やっぱりおいしくないというイメージを持たれる方が多いのですが、matoilのご飯はすごくおいしいので、食べていただければ分かるかなと思っています。先ほどご紹介したイベントにはアレルギーじゃない子も来るんですが、このパンが好きとか、デザートが好きとか言って、リピートしていただけると、これはみんなにとって欲しいものなんだなと思えます。
――味そのものよりも食感への影響が出そうな気がするのですが。
そうなんです。味の前に食感が気になり、違うなって思うときもあり、とても難しいんです。だから、総合的にそれが本当に肉まんなのか、ケーキなのか、という判断になります。
――難しかったものはありますか?
味で難しかったのはカステラですね。カステラって、卵味なんですが、それを卵を使わずに代替素材で作ると、焼くと風味が飛んでしまってカステラの味がしない。食感が近づいてもカステラではない、と。
それから、matoilでやっているアレルギー対応がとても難しい範囲まで広がってきており、卵や小麦を使わないぐらいだったらもう全然問題ないんですが、そこにプラスでナッツ類や大豆とかもダメですとなると、乳の代替がまず大豆で、それが使えないとアーモンドやココナッツになるんですが、それもダメとなると、すべてを封じられてしまい、クリームなどを表現できなくなります。そうなってくると、素材から作らないといけなくなり、難易度が上がります。
――こうしたニーズは日本だけじゃないと思いますが、グローバル展開は検討されているのでしょうか。
今、実際に問い合わせが来ており、目下ではインバウンドのお客さまへの対応です。インバウンド向けでは、アレルギー以外にグルテンフリーだったり、ビーガンだったり、宗教だったり、食の多様性への理解も必要になるので、ご要望をお聞きして、できる範囲で対応しています。
修学旅行でも海外に行かれる方からの問い合わせをいただき、悩んでいるところです。簡単にはできないことですが、弊社の場合、海外にも拠点がありますので、現地に相談すると、「え、こんなことやってたんだ」とビックリされることもあります(笑)。
――いろいろと商品があるなかで一番人気が高いものはどれでしょう?
ドーナツ、ピザ、タルトです。
――そのあたりの商品は、米粉を使うなど、ライバルも結構いると思いますが。
それはアレルギー対応という言葉をどう捉えるかだと思うんです。アレルギー対応には共通の仕様がなく、ある会社にとっては卵・小麦不使用、ある会社にとっては8品目不使用、ある会社にとっては28品目不使用で、ここのアレルギー対応商品は食べられないというのがあるんですが、私たちの場合はお客さまにあわせていくので、それがありません。
米粉のパンをうたっていても、実際には小麦も入っていたり、ナッツが入っていたり。アレルゲンは一般的な28品目に限らず、命に関わる部分でもあるので、(差別化のポイントは)そういうところかなと思います。
――matoilで対応しているアレルゲンの種類はどれくらいの数になるのでしょうか。
もう100を超えていると思います。いつか数えないとと思っているので、今度ちゃんと数えてお伝えしていきます。
――今後の展望についても教えてください。
やってみて分かったのは、お母さんも大変だし、先生も旅行会社さんも、対応される施設の方もみんな大変ということです。何とかみんなで協力して、この問題を解決していきたいなと思っているので、困ってますという方がいらっしゃったら、協業も含めてお声がけいただけたら嬉しいです。
――ありがとうございました。