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サントリーの物流センターに導入された新しい自動化設備を見てきた

2025年4月25日 開催
サントリーロジスティクス神奈川支店 長津田配送センターに新たに導入された自動搬送ラック

 サントリーの酒類や清涼飲料などの神奈川県、静岡県、山梨県の3県への配送を受け持つ、サントリーロジスティクス神奈川支店 長津田配送センター(神奈川県横浜市緑区長津田町4243-1)に新たな自動搬送ラックが導入されたのにともない、施設の見学会と説明会が開かれたのでレポートする。

 長津田配送センターは年間約5300万ケースを出荷しており、サントリーの出荷倉庫で最大級の出荷量を扱っている主要な配送センターだ。これは1日平均で約8万ケースにもなる。

サントリーロジスティクス神奈川支店 長津田配送センターの全景
長津田配送センターで扱う酒類や清涼飲料の例

 説明会でサントリーロジスティクス 取締役会長 武藤多賀志氏は、今回の自動搬送ラック導入について、「2023年春から“物流2024年問題”に取り組みはじめ、今回の自動搬送ラックのプロジェクトを組んでスタートさせています。当センターでは細かなピッキング(注文に合わせ、必要な商品をケース単位でパレット上に集める作業)が多く、積み込みにかかる準備、積み込みの時間もどうしても長くなってしまいます。センターでの滞留時間を少しでも削減できるかを考え、一つの手段として今回の導入になりました。国土交通省の『物流施設におけるDX推進実証事業』の認定と支援も受け実証中で、4月から本格稼働を迎えることになりました」と、導入の経緯の説明をしながらのあいさつがあった。

サントリーロジスティクス株式会社 取締役会長 武藤多賀志氏

 続けて、サントリーホールディングス サプライチェーン本部物流調達部部長 塚田哲也氏から、現在の物流の取り組みについて解説があった。酒類と清涼飲料を含む「食料工業品」は、金属や機械よりも輸送量が多い輸送量上位の品目であり、それにもかかわらず、トラックドライバー人口は減少傾向にあり、2022年比で2030年には23%も減ってしまうと同社では予測しているそうだ。これに対応するためサントリーでは、他社との共同配送・積載効率向上、輸送距離の短縮、鉄道や船舶輸送へのモーダルシフトの推進、トラック滞留時間の削減の4項目に取り組んでいるという。

 一例として、2024年7月からダイキン工業と共同で、ダブル連結トラックを活用した往復輸送を開始したことや、大王製紙と共同で、重量のある酒類・飲料製品と軽い紙製品を混載して積載効率を向上させること、2025年1月から北アルプス信濃の森工場にて製造した「サントリー天然水」を東北方面へ鉄道輸送を開始させたこと、といった具体的な取り組みが紹介された。ダブル連結トラックでは10トントラック2台分の貨物を1人のドライバーで輸送可能で、輸送行程も短縮できるという。鉄道輸送では年間約4000台のトラック削減に成功したそうだ。ほかにもエリアを跨いで輸送していたものを、エリア内で製造し短距離輸送する構造にしていくという、これまでの大きな1工場で効率よく大量生産するという方法とは逆の方向に向いている。

 さらに、飲料向けに最適な仕様で2021年から稼働を始めた浦和美園配送センターの、自動運転フォークリフトによる省人化や、仮置きスペースで直接積み込める事例の紹介もあった。

サントリーホールディングス株式会社 サプライチェーン本部物流調達部部長 塚田哲也氏
ダイキン工業と共同で輸送に使うダブル連結トラック
大王製紙と共同で、重い酒類・飲料製品と軽い紙製品を混載運送

 最後に、サントリーロジスティクス 神奈川支店支店長 上田博之氏から、新たに長津田配送センターに導入された自動搬送ラックについて解説があった。ラックの全体設計は、豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニーが担当している。トヨタL&Fは、物流システムとフォークリフトを取り扱う会社だ。工場や倉庫の自動化の設計もする。

サントリーロジスティクス株式会社 神奈川支店支店長 上田博之氏
従来の長津田配送センターでの課題
自動搬送ラックの導入後

 これまでの作業としては、ピッキングした後、フォークリフトで約120mの距離を搬送、トラック毎に出荷前仮置きしてから積み込みをしていた。仮置き場が広く必要で、搬送距離が長く、積み込み作業にもタイムロスが発生していたとのこと。

長津田配送センターに導入された自動搬送ラック
奥に長くなっていて、大量の仮置きに対応する
トラックへの積み込み場所の近くにある

 これを、ピッキング後、フォークリフトで自動搬送ラックの投入口に入れるだけで、QRコードを読み取り出荷前仮置きまでを自動で完了する。9列×3段の多重化されたラックにスタッカークレーンで上下に移動させ自動で入庫し、間口に自動搬送させる。27ある間口からは、モニターの表示に従って、フォークリフトで取り出しトラックに積み込む。このラックが2台、4月から稼働した。仮置スペースが約2倍に増え、出荷の準備作業が効率化されることで、トラックの積み込みにかかる時間を約3割削減することができたとのことだ。ラック導入前の当センターにおけるトラックの平均滞留時間は約1時間30分で、うち積み込みに約50分かかっていたそうで、ここから約3割削減。年間にすると2000時間が削減できる見込みにしているとのことで、大きな省力化となる。

ピッキングの終わったパレットをフォークリフトで投入口へ
投入口にパレットを乗せた
パレットには選別用のQRコードが付けられている
QRコードが読み取られた
QRコードの読み取り装置
ラック方に自動で向かっていく
スタッカークレーンの入庫口に向かう 上下に移動させ自動で入庫
勢いよくスタッカークレーンが向かう
スタッカークレーンには自動で乗せられる
パレットがスタッカークレーンに乗った
スタッカークレーンがラック間口に向かっていく
一番上の段のようだ。上に上げられた
QRコードで指示された間口に自動投入される
そのままラック内を進んでいく。これは最下段のようす
先にはトラックが待機している
パレットが先まで到着。搬入可能になると。オレンジのランプで知らせる
空の場合はグリーン
トラックに乗せるための指示をするモニターがある
乗せるトラックの「車番」とパレットのある間口「ロケ」とパレットの「予定数」の表示
下側には今日の工程の予定と現在のトラック位置をGPSで知らせる地図
フォークリフトで向かう
最上段間口に到着したパレットを運び出す
バックでトラックに向かっている
トラックに積み込み完了

 日々何気なく口にする飲料製品やお酒は、製造工場だけでなく、配送にかかわる多くの人の苦労の上で、我々の近くまで運ばれていることを今回の見学で改めて痛感した。国内人口は減少フェーズに入り、さらなる効率化や自動化を求められている現状も肌で理解できた。先の説明にあった浦和美園配送センターの事例として紹介された自動運転フォークリフト(AGF)が、この自動搬送ラックと合体すると、さらにすごい省力化になるのではと想像して、その可能性についてうかがってみたところ、「DXを活用した自動化は、新築時に併せて導入するのがベストだと考えています(浦和美園配送センターは2021年から新規で稼働している)。今回の自動搬送ラック導入は、既存施設で効率化をあげるために効果的な解決法のひとつ。自動運転フォークリフト導入を含め、今後もさらなる自動化は、すごく重要だと考えています。すでに働いている人とのバランスも考えなくてはなりませんし、フォークリフトを運転できる人が減ってきているという現状もあります」(武藤取締役)と教えてくれた。