インタビュー

キリンが会員制生ビールサービス「ホームタップ」を始めた理由

キリン ホームタップ

 キリンビールは、工場つくりたてのビールのおいしさを家庭に届けるサービス「キリン ホームタップ」を提供している。会員制のサービスとなっているため、契約してみないことにはどんなサービスなのか全貌が見えにくいが、マーケティング本部 事業創造部の松藤壯太氏に具体的なサービス内容や提供の狙い、こだわりのポイントなどを伺った。

――まずホームタップというサービスの概要について教えてください。

松藤氏
 ホームタップは、工場つくりたてのおいしさをお届けしたい、というコンセプトからできたサービスです。ペットボトルに入ったビールを月に2回お届けするのですが、これをおいしい状態で飲んでいただくため、専用のビールサーバーも独自に開発して、こちらもレンタルいただく、というようなサービスになります。

 定番は、一番搾りブランドの最上位となる「一番搾りプレミアム」で、普通は特定のお店やギフト品でしか飲めないビールですが、これが通年で飲めます。それ以外にも季節によっていろんなクラフトビールが登場し、「スプリングバレー」のようなキリンのブランドのビールも提供しているのですが、今年からはそれらに加えて「銀河高原ビール」「よなよなエール」「インドの青鬼」など、他社のビールの取り扱いも開始し、常時3~4種類の中から好きなものを選んで楽しんでいただけるようにしています。

「一番搾りプレミアム」のほか、季節によってさまざまなクラフトビールが登場する

――サービスとしては、いつ頃からスタートしたのでしょう?

松藤氏
 実は2015年から開発を進めていて、最初は「ブルワリーオーナーズクラブ」というサービスがあり、首都圏で100名程度でテスト的にお客さまに提供を開始していました。その頃はサーバーも今と違ったり、ペットボトルの提供の仕方も異なっていたのですが、そこからお客さまの声を聞きながらサービス開発を進めていき、2017年からホームタップとしての展開を開始しました。

――サービス開始当初からビールサーバーをレンタルして、ペットボトルを配送するというところは変わっていませんが、この間に変更したことはありますか。

松藤氏
 お客さまの声を日々お伺いし、サービス改善に努めています。一番大きい点でいうと、注ぎ口となるチューブとペットボトルを繋ぐキャップの部分です。ホームタップは家庭で使うことを想定して作り込んでいるのですが、お客さまからビールや泡が出ないという指摘をいただき、実際にお客さまのところに伺って使い方を調べてみたら、しっかりとキャップが閉まっていないことが分かったんです。そこで2019年にキャップに凹凸を付け、握りやすくすることで、しっかりと閉められるように改善しました。

新旧のビアラインキャップ。右が現行バージョン

 最初の2015年(ブルワリーオーナーズクラブ)と比べての話になりますが、泡を作るのに炭酸ガスを利用しているのですが、ガスがつまったカートリッジの接続機構に関しても、2017年にサービスインする際に改良しました。今は内部に格納する構造なのですが、昔はもう少し容量の大きいカートリッジを使っており、接続する機構も、ビールサーバーの外側に直接バルブでつなぐような形式をとっていました。それだと物々しいというお客さまの心情や、取り回しの使い勝手も考え、今は小型のガスカートリッジを採用し、ガスの抽出機構自体もユニット化して取り外しができるようにして、ビールサーバーに内蔵する構造になっています。

 それ以外にもお客さまの声を聞きながら、本当に細かい部分の改善を続けてきています。そこは我々チーム内でも、常に永遠のβ版だという話をしながら、お客さまにとっておいしいビールと楽しい体験を提供するために常時ヒアリングをさせていただいています。

――ビールサーバーもそうですが、飲み終わってから気がつきますが、専用のペットボトルも独特の色をしていますよね。

松藤氏
 このペットボトルには技術チームのこだわりが詰まっていまして、ビールの敵の1つは、味の劣化の原因になる酸素なんです。ペットボトルをよく見ていただくと分かるんですが、薄く茶色いコーティングがされています。これがダイヤモンドライク・カーボンコーティング(DLC)といって、ちょっと難しい名前なんですが、酸素の透過を防ぐコーティングを施しているんですね。そういった鮮度を保ってお届けするための工夫をしっかりやっています。

 この技術自体は、もともとキリンの中で開発を進めていたもので、業務用ではタップマルシェやTAPPYでも使われているんですが、業務用のサイズだと家庭では飲みきれないというところもあり、ホームタップ用の1リットルのラインを工場に作って提供しています。

ダイヤモンドライク・カーボンコーティングが施された特殊なペットボトルが採用されている

 それから、業務用のビールサーバーは、お店の方が毎日洗浄だったり、いろいろと手間をかけてメンテナンスしているものなんです。というのも、ビールって生き物で、鮮度が大事なので、きちんと洗浄しないと、やっぱり味が劣化して、おいしくなくなっちゃうのですが、その作業を家庭でできるのかというと難しいよね、という話に開発時になったんです。

 それでもおいしい状態で飲んでもらいたいという気持ちがあったので、ストローとチューブで抽出するという方法を考えました。これだと、ストローは使い捨てで、チューブのところもピューッと水を通していただければキレイになりますし、これであればご家庭でも簡単で清潔に管理ができるだろうということで、この方式をとらせていただいています。

 このチューブも、途中をつぶして泡を作り出す機構になっているんですが、どうやったらおいしい泡を再現できるかというところにかなりこだわってチューブの太さやチューブをつぶすストップバルブという機構の形状を調整しています。結構簡単そうに見えるんですが、ミリ単位でこだわって作っているんです。各プラスチック部分のパーツに関しては、製造時の樹脂の固さなどによっても泡のきめ細かさなどが変わってくるため、製造をお願いしている会社さんとも密にやりとりして実現しているものになります。

 おいしさというところでは、保冷機能も搭載しているのですが、ビールがおいしく飲めるとされる5℃前後に冷えるように設定されています。

専用ビールサーバーのフタを開けたところ。簡単そうに見えて、細部にこだわって開発されている

――そうやって苦労して開発したものが実際に世に出て、お客さんの反応はいかがでしたか。

松藤氏
 まずは、このビールの味に驚いていただける方が多いですし、いろいろなビールを注いで飲めるのも嬉しいという評価をいただいています。泡のきめ細やかさも好評ですね。

 やっぱりビールをご家庭で注ぐっていうのが新しい体験で、ご夫婦で注ぎあったり、それでニコニコしてるみたいなところとか、ちょっとだけ飲めるというところもご好評いただいている部分です。僕らも改めて感じたんですが、味だけじゃなくて、ビールを注ぐ新しい体験や家庭でのコミュニケーションが大事なのかな、と思っています。

レバーを手前に引くとビールが出てくる
最後にレバーを反対側に倒し込むと泡が作れる

――将来的にはビール以外の提供もあり得るんでしょうか?

松藤氏
 私たちホームタップチームとしては、まずはビールをご提供するというところで、将来的なことについては明確にお答えできる状況にはありません。たしかに炭酸ガスがあるし、ほかの飲料も出せるんじゃないかという話はお客さまからもいただいてはいますが、現時点ではビールのおいしさをちゃんとお届けしたいというところがメインです。

――そもそも、どうして定期配送サービスなのでしょうか。

松藤氏
 やはり、できるだけ工場つくりたてのおいしさをお届けしたい、というのが一番初めのコンセプトにあるので、売り切りではなく、定期配送をチョイスしています。

 大人数で飲む予定があるので多めにほしいという場合はマイページで追加で注文することもできますし、今月は外出が多いので配送をスキップするということも可能です。送料が550円かかりますが、注文から3営業日(72時間、場所によって異なる)でお届けするお急ぎ配送というサービスも用意しています。

マーケティング本部 事業創造部の松藤壯太氏

――理想で言えば、自宅のホームタップのボトルの使用量を検知して、ちょうど足りなくなるタイミングにボトルが届く、みたいなサービスになると仕組みとしては美しいように思えますが、さすがに難しいですか?

松藤氏
 そういうご要望もいただいてはいますが、ビールをどれくらい消費しているかを計測するセンサーをサーバーに組み込んでデータを飛ばして、といった形で実現も可能だとは思うのですが、ご家庭にWi-Fi環境がないお客さまもいらっしゃいますし、コストの問題もあるため、まだまだ検討・研究開発中というのが実態です。

――なるほど。今後にも期待しています。本日はお忙しいなか、ありがとうございました。