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キリン、電気の力で塩味・旨味を増す「エレキソルト」。対応カトラリーを2023年発売へ

2022年9月7日 発表

「エレキソルト」を搭載するスプーンとお椀

 キリンホールディングスは9月7日、電気の力で塩味や旨味を増すことができる技術「エレキソルト」を搭載するスプーンとお椀を発表した。明治大学 総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 宮下芳明研究室と共同で開発したもので、減塩食など塩味を抑えた料理であっても最大1.5倍程度塩味が強く感じられるようになるという。

 また、9月から11月にかけ、減塩食品専門ECサイトを運営するノルトと、食に関する情報を発信しているオレンジページと共同で、今回開発したカトラリーの実証実験も開始する。

電流でナトリウムイオンの動きをコントロール

 キリンが開発した「エレキソルト」という技術を採用したカトラリーは、内蔵のバッテリーにより通電しながら食事を摂取することで、塩味や旨味が増すように感じられるもの。食品に含まれる塩味のもととなっているナトリウムイオンの動きを、特殊な波形で出力する電流によってコントロールすることで、舌で感じられる塩味・旨味が強調されるとしている。

「エレキソルト」の技術を採用したスプーン(手前)お椀(右)
スプーンは汁物をはじめ幅広い食事に、お椀は主に汁物にそれぞれ使える

 明治大学の宮下教授によると、塩味のある食品内にはナトリウムイオンが散在しており、口に含んで舌を通過するときに、そのごく一部だけが味として知覚できるのだという。つまり、知覚できずに単に通過してしまう味が大部分を占めており、「エレキソルト」はそうした通過してしまうような塩味・旨味も集約して知覚できるように働くとのこと。

特殊な波形で電流を流すことによりナトリウムイオンの動きをコントロールする

 研究開発中のプロトタイプでは、同様の技術を用いた箸を利用し、一般食より30%塩分を抑えたサンプル食品を使ったテストで、約1.5倍強い塩味が感じられたとする結果が得られたという。健康上の理由から減塩食を摂らざるを得ない人、あるいは健康のために減塩食を進んで摂取している人にとっては、食事中の塩分を一切増やすことなく満足度の高い食生活を実現できる手段となる。

プロトタイプの箸を使った実験では、減塩した食品でも1.5倍強い塩味を感じられるという結果に

 実際に「エレキソルト」のスプーンやお椀を使って減塩ラーメンを試食したところ、通電しているときは明らかに塩味もしくは旨味が濃くなったと感じられた。お椀、スプーンともに電流の強さは4段階(0.1~0.7mA)で変更でき、強くなるほど塩味なども増す方向に働く仕組みで、利用者の好みに合わせて調整することになる。微弱とはいえ電流が流れることなどから子供の利用は想定されておらず、使用できるのは成人のみとしている。

試食に使った「エレキソルト」のスプーン。今回は柄の先に乾電池を取り付ける形になっているが、市販化時は柄の中にバッテリーを内蔵する予定
電源オンの状態で、柄の裏側にある電極部に触れながら食事することで塩味が増す
柄に設けられたボタンを長押しして電源オン。ボタンを押すたびに電流の強さを4段階で変えられ、中央部のラインの点灯で区別できる
お椀は底近くにあるボタンを長押しして電源オン
底面の銀色に見える電極部に触れながら食事すると塩味が増す
減塩ラーメンをお椀で試食した
お椀もラインのように見える透過部分の点灯で電流の強さを区別できる

 実証実験はノルトとオレンジページのサービスを利用している会員を対象に、イベント会場で60人程度、家庭内使用で15~20人程度を募集して実施する予定。実証実験で使用する電池式の場合は、1日3食使った場合で約1か月ほど動作するとしている。その後2023年中には市販化する予定としており、「お客さまが手に取りやすい価格」での提供を目指す。スタンドなどで容易に充電できる内蔵バッテリー式とし、さらに電子機器部分は容易に取り外せる構造にすることで、安全に手洗いもできるようにする。

ノルトとオレンジページの会員を対象に9月から11月にかけて実証実験を行なう

 企画・開発を担当するキリンホールディングス 新規事業創造グループの佐藤氏によると、日本人は世界的に見ても塩分を「摂りすぎ」の状態にあることが多く、国民の健康上の課題の1つとなっている。一方で、健康志向の高まりから減塩・無塩食品の市場は拡大しており、2015年からの5年間で26%の成長を見せているとのこと。しかし、塩分が抑えられた食事に不満をもつ層も6割以上に達しており、その悩みを解決するデバイスのニーズは極めて高いと見ている。

 大きな需要が考えられるのは病院などの医療施設だが、医療機器としての認可を取得して販売することは現在のところ検討しておらず、まずは家庭内での使用を想定し、一般の市場に向けて提供していく計画。なお、研究開発中に使用していた箸タイプのものは、装着の手間の問題などから実証実験、市販化ともに予定していない。

キリンホールディングス株式会社 新規事業創造グループ 佐藤愛氏
日本人は世界的に見て塩分過多
しかし減塩・無塩食品の市場は拡大基調にある
減塩・無塩食に不満をもつ率は高い