ニュース

くら寿司、10月1日に「110円/220円」から「115円/165円」へ価格改定。田中社長が登壇し説明

2022年9月7日 発表

2022年10月1日 価格改定

くら寿司が従来の110円と220円から115円と165円の新価格帯に

 くら寿司は9月7日、「第28期事業戦略」について記者発表会を実施。今後の「持続可能な成長」を目指す戦略について、「国内」「海外」「未来」の3つの軸で発表した。前日の6日には「2022年10月期 第3四半期決算短信」を公表しており、当初、想定していた営業利益を大幅に修正。登壇した代表取締役社長の田中邦彦氏は、その原因としてコロナの第7波で客の戻りに急ブレーキがかかったこと、原材料や燃料の高騰の影響が大きかったことを伝えた。

くら寿司株式会社 代表取締役社長 田中邦彦氏
第27期業績見込。昨年12月の公表値を大幅修正

「持続可能な成長」を目指す国内の戦略

 くら寿司は安心・安全で美味しいお寿司を1皿100円というリーズナブルな価格で、より多くのお客さんに楽しんでもらいたいという考えのもとに1977年に創業。田中社長は「この考えは現在も変わらないし、今後も変えるつもりはない」としながらも、ここ2年でクロマグロの価格は約1.6倍、サーモンに至っては約2倍と、魚介類の価格の高騰を始め、光熱費、運搬費、人件費など、あらゆるコストが上昇し、さらに円安で拍車がかかり、非常に厳しい状況になっていることを告げた。

「今回の急速かつ終わりの見えないコストの上昇は、企業努力だけでは乗り切れないと判断。今後も安心・安全で美味しいお寿司を提供するためには、価格の全面改定が必要だと判断しました」と田中社長。

 くら寿司が来期にさらに成長するためには、これまでにない改革が必要と掲げたのが、創業以来の大改革となる価格の全面改定だ。現在の基本価格帯である110円と220円を改定し、10月1日からは115円と165円とすることを発表した。

新価格115円メニュー例

極み熟成まぐろ、はまち、サーモン、とろサーモン、えび、大葉真いか、かれい昆布締め えんがわ添え、肉厚とろ〆さば、旨だれ牛カルビ、たまご焼き、ねぎまぐろ、えびマヨ

新価格115円メニュー例

新価格165円メニュー例

【炙りたて】Wチーズサーモン、【炙りたて】Wチーズえび、【炙りたて】Wチーズ豚カルビ、【炙りたて】Wチーズえびマヨ、【巻きたて】海鮮うに手巻き(一貫)、【巻きたて/揚げたて】えび天手巻き(一貫)、【巻きたて】たっぷりいくら軍艦、【揚げたて】いか天にぎり、【作りたて】えびアドカド、【作りたて】大切り 極み熟成まぐろ、【作りたて】大切り 極み熟成漬けまぐろ、【作りたて】大切り はまち

新価格165円メニュー例

 従来の110円メニューは基本5円値上げ。一部、あじ、真だこ、生だこ、えんがわ、鉄火巻き、オニオンサーモンの6商品については、原材料高騰のため165円にする。一方で220円商品は165円に値下げする形に。これについて田中社長は、「110円商品を5円上げるのであれば、一部では価格を下げて企業努力を見せないといけない」と説明。165円商品には新規の18商品を加えることで、115円が約50商品、165円が約40商品と、充実のラインアップをそろえる。

10月1日以降の商品構成

 値上げするとはいえ、その値上げ率は外食業界の標準から考えると低い。しかも一部では値下げも行なう。このような価格改定ができる強みとして、次の4項目を挙げる。

くら寿司の4つの強み

1. 購買
・全国115の漁港から直接仕入れることで、流通を通すよりも安い価格で取引
2. 自社加工センター
・埼玉県、大阪府堺市、大阪府貝塚市、福岡県に4つの自社加工センターを持つ
・自社加工センターでは委託するよりも柔軟な対応ができ、コスト的にもメリットがある
・通常1匹の魚から捕れる寿司ネタは40%程度だが、海鮮丼や巻きもの、コロッケなどに加工することで、ほぼ100%無駄なく活用
3. 最先端のシステム化
・2021年12月に全店舗で運用を開始した「スマートくら寿司」を始め、業界最先端のITシステムを投入
・予約、案内、注文、会計などについて従業員を介せず行なえるようにし、店舗を合理的に運営
・レーンに流すお寿司を管理。レーンにお寿司を流しながらも廃棄率を3%に抑える
4. 海外
・2009年にアメリカ、2014年に台湾に進出。これらの海外店舗が日本よりも早くコロナ禍を乗り越え、収益に貢献し始めたことで、日本のくら寿司が支える必要性が低くなっている

くら寿司の値上率は「3%以上5%未満」と外食業界標準より低い
客と従業員が接触しない「スマートくら寿司」のシステムはコロナの感染対策にも貢献

「持続可能な成長」を目指す海外の戦略

 くら寿司USAは、2020年、2021年は非常に厳しい状況だったが、急速に業績を回復し、第3四半期には黒字化を達成。新規で8店舗を出店し、8月末に40店舗を達成した。年内にはミネソタ州にある全米最大規模の巨大ショッピングモール「モール・オブ・アメリカ」に出店を予定するなど、全米のモールから出店依頼が来ている状態。数年内には全主要都市全てへの出店を目指す。

 一方、くら寿司アジア(台湾)はコロナの影響が限定的で、好調に推移している。新規に8店舗を出店し、オープン時には行列ができるなど、現地でも人気チェーンとしての地位を確立。コロナ禍でも積極的に出店を継続し、現在、48店舗にまで拡大する。

 日本、アメリカ、アジアの3社を合わせた時価総額は2500億円以上の規模。「今後においても回転寿司は世界を制する十分なポテンシャルがあると考えており、国内はもちろん、海外においても積極的な成長を目指す」と田中社長は意気込む。

「持続可能な成長」を目指す未来の戦略

 未来においては、水産物の安定供給と国内漁業事業者との共存共栄を目指して、日本の魚食文化を守る「漁業創生」の取り組みを継続。日本発のオーガニックフィッシュを自社養殖する「KURAおさかなファーム」を設立したほか、今年から、くら寿司の取り組みを通じてSDGsを学ぶ出張授業プログラム「お寿司で学ぶSDGs」を実施。現在、小学生100校以上からの申込みを受けているという。

くら寿司の「漁業創生」の取り組み

 そして2025年に開催される「大阪・関西万博」では、テーマ事業への協賛を行なうほか、万博会場内に「未来の回転寿司」をコンセプトとした回転寿司店を出店予定。詳細はこれから詰めるとしながらも、「最先端の技術を活用した世界最大の未来の回転寿司で、世界中のお客さんに忘れられない食体験をしていただきたい」と田中社長は熱く語った。

「未来の回転寿司」のイメージデザイン

 このような「国内」「海外」「未来」の取り組みで、2030年に全世界売上3600億円の達成を目指すくら寿司。プレゼンテーション後に田中社長は、今回の価格改定にまつわるエピソードを語った。

 それは5年前のこと。同業他社が150円ラインの商品をたくさん出したことで、くら寿司の開発チームからも「150円の商品を作らせてほしい」という申し出があったという。だが当時、田中社長はその申し出を受け入れなかった。その理由は、「いざという時に150円ラインは温存しておかなければいけない」という考えがあったから。今回、「今こそ150円ラインの商品を作れ」と開発チームを動かした。

「私は弊社の海外事業は世界一だと自負しています。海外に日本の商品をそのまま持っていっても受け入れられない。それを瞬く間に現地に気に入られる商品に開発した開発力は、全国でもそうあるものではありません。そんな開発チームに150円ラインの商品を作らせたら、最高のものを作るだろうと思っていました。そして見事な商品を作りました。おそらくみなさんが知っている150円ラインのお寿司の中で、これ以上のものはないだろうという商品です。ぜひ見て、味わってほしいと思います」

 記者発表後の囲み取材では、自身のはっぴ姿を披露するなど、今後の展開にも意欲的な姿勢を見せた田中社長。10月1日の価格改定以降の動向に注目せずにいられない。

自身のはっぴ姿を披露する田中社長