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キリンビール、国産ブランド「陸」「富士」の戦略強化でジャパニーズウイスキー市場を活性化

2022年3月17日 発表

キリンビール株式会社 代表取締役社長 堀口英樹氏(左)と事業創造部 主務 原田崇氏(右)

 キリンビールは3月17日、国産ウイスキー戦略発表会を開催。国産ウイスキー事業を、10年先のキリンビールを支える事業として位置付け、今後、国産ウイスキーブランドの「陸」と「富士」に注力した事業戦略を展開することについて説明した。

 キリンといえば、まず思い付くのが「キリン 一番搾り」だ。そのほか第3のビールとして「本麒麟」、チューハイとして「キリン 氷結」など、強固のブランド力を誇る商品がそろう。そんな既存ブランドをさらに成長させていくとともに、次なる主力ブランドとして国産ウイスキーに注力する。

富士御殿場蒸溜所のウイスキーで市場を活性化

 登壇した代表取締役社長の堀口英樹氏は、「国産ウイスキー事業を、10年先のキリンビールを支える中核事業の一つとして位置付ける」と発表。自社のウイスキー事業の沿革や日本のウイスキー販売の推移、2022年の売上げ計画などについて語った。

国産ウイスキーの事業戦略について語る代表取締役社長の堀口英樹氏

 キリンビールの国産ウイスキー事業は、同社とJEシーグラム(米、当時)、シーバスブラザーズ社(英)の3社合弁会社によってスタート。1973年に富士御殿場蒸溜所が完成し、そこから製造が始まった。

 当時はウイスキーがステータスシンボルの酒として、市場が拡大していた時期。「ロバートブラウン」や「エンブレム」などの商品を投入して好調に推移するも、酎ハイブームや酒税改定などによって1983年をピークに衰退してしまう。

 そんなウイスキー市場が再び上向きに転換した出来事が、2009年のハイボールブームだ。ドラマの影響などもあって国産ウイスキー人気が急速に高まり、2020年に国産ブランド「陸」と「富士」を発売。「この2ブランドは現在、キリンウイスキーの売上げを牽引する存在に成長している」という。

キリンの国産ウイスキー事業の沿革
日本のウイスキー販売(消費)数量の推移

 2021年発売の「陸」の販売数量は前年比17%増。配荷店数を7200店増へと飛躍的に伸ばした。一方、「富士」はアメリカとフランスへの海外展開を本格的に開始し、2021年は国内前年比約3倍、海外前年比約20倍以上と順調に地盤を固めている。

国産ブランド「陸」と「富士」の2021年の販売状況

 そこで2022年の事業方針として掲げるのが、富士御殿場蒸溜所で製造するミドル・スタンダード(1000円~2000円)の「陸」と、プレミアム(3000円以上)の「富士」のより強固なブランド育成だ。「陸」は中身とパッケージに大幅なリニューアルを行ない、「富士」は今春から中国やオーストラリアへの輸出を開始。2025年までに海外比率50%を目指す。

国産ウイスキーの2022年事業方針

「陸」と「富士」ブランドを語るうえで欠かせないのが、富士御殿場蒸溜所の存在だ。堀口社長は「富士御殿場蒸溜所は世界でも稀有な蒸溜所」だという。その理由が次の4つだ。

1. 日本人に合うウイスキー作りを目指して、日本、アメリカ、イギリスの3社によるジョイントベンチャーを起源にしたこと。
2. モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造し、仕込みからボトリングまでを一貫して行っていること。
3. タイプの異なる蒸留器で、ライトタイプ、ミディアムタイプ、ヘビータイプの3タイプのグレーンウイスキーを作っていること。
4. キリンビールのマスターブレンダーである田中城太氏が、ウイスキー業界の国際的アワード「アイコンズ・オブ・ウイスキー2017」において、「マスターディスティラー/マスターブレンダー・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、世界最優秀のブレンダーとなったことだ。これにより世界で評価される高い品質のウイスキー作りを行っていることが証明された。

 富士御殿場蒸溜所は2019年に約80億円の生産設備投資を実行。ウイスキーの原酒不足などの問題を解決するべく、樽熟成庫の保管能力の増強と、多彩な原酒を製造するため、発酵・蒸留設備を新設した。

富士御殿場蒸溜所の生産設備投資を実施

 2022年の国産ウイスキーの売上計画として、「陸」ブランドは前年比147%増の19億円、「富士」ブランドは前年比202%増の12億円、全体としては前年比78%増の42億円を掲げる。堀口社長は「ここ数年、世界においてもジャパニーズウイスキーの評価が大変高くなっており、海外はすごくポテンシャルの高い市場だと感じています。売上計画では78%プラスという非常にチャレンジングな数字を掲げておりますが、ぜひ達成していきたいと思います。今年以降のキリンのウイスキー事業にご期待ください」と締めくくった。

ジャパニーズウイスキー「陸」と「富士」を展開

 具体的な商品戦略については、事業創造部 主務の原田崇氏が説明した。まず国内外の市場動向にふれ、国内市場では特に3000円以上のスーパープレミアムが伸びていることを説明。海外の市場動向では、ジャパニーズウイスキー市場が順調に成長するなか、特にアメリカとフランスの販売数の伸びが高いことを語った。

具体的な事業政略について語る事業創造部 主務の原田崇氏

 商品戦略としては、「陸」ブランドは大幅なリニューアルを行ない、4月5日に新しい「陸」を発売。「富士」ブランドは4月から海外市場に積極的に展開し、6月7日に新たなスタイルの「シングルブレンデッドウイスキー」を投入する。

「陸」と「富士」の今後の展開

「陸」ブランドの大幅なリニューアルは、中身とパッケージデザイン。「中身については富士御殿場蒸溜所の多彩な原酒を主体にブレンド比率を見直して、美味しさの強化を行ないました。これによりほのかな甘い香りと澄んだ口当たり、何層にも感じる香味豊かな美味しさを味わっていただけます。

 パッケージは売り場で商品を認知しにくい、現代的なデザインだがウイスキーっぽくないという課題がありました。そこでロゴを大きくして識別性を強化。金帯を用いて、ウイスキーらしさや品質のよさが伝わるよう色味をブラッシュアップしました」と原田氏。

「キリンウイスキー 陸」のリニューアル内容

「陸」は味わい、香りのよさ、本格感について高い評価を得ている一方で、まだまだ知られていないのが実情。キリンがウイスキーユーザーベースで認知を調べてみた結果、82%が知らないと回答した。つまり普段、ウイスキーを飲まない人にはほぼほぼ知られていないということだ。

そこでキリンは、国産ウイスキー史上、最大規模のプロモーションを展開する。国産ウイスキーとしては17年ぶりにTVCMを投入するほか、SNSなどで1億リーチ、まず試して頂くために50万人規模のサンプリングを大規模に行なうことを発表した。

4月5日発売の「キリンウイスキー 陸」(500ml・オープン価格)

「富士」は富士御殿場蒸溜所のDNA、ウイスキー作りを体現したフラッグシップブランド。「富士」という名前のとおり日本の象徴であることがストレートに表現されているので、海外展開を加速し、世界規模の認知度アップを狙う。2020年に発売した「キリン シングルグレーンウイスキー 富士 30年」(700ml・27万5000円)は、世界的な品評会であるWWAとISCで2冠を達成。世界的にも高い評価を受けている。

 今後の展開として、モルトとグレーンを同一の蒸溜所で作る富士御殿場蒸溜所ならではの世界的にもめずらしいスタイルの「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」(700ml・中国680元前後、オーストラリア149オーストラリアドル前後)を4月より中国やオーストラリアで販売開始。

 6月7日に「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」(700ml・6600円)を販売する。そしてよりプレミアムな商品として、貴重な長期熟成原酒を贅沢に使用した「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士 2022 マスターピース」(700ml・5万4780円)を約1000本の数量限定で4月19日より発売(蒸溜所では3月1日より先行発売)。

「富士」ブランド。左から、2020年発売の「キリン シングルグレーンウイスキー 富士 30年」。今回、発売となる「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士 2022 マスターピース」、「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」、「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」の3種

 コロナ禍で家飲み需要が高まり、いつもと違うお酒を飲んでみたいというニーズから、ウイスキーを選択する人が増えている。ウイスキーのカテゴリには大きく国産ウイスキー、バーボン、スコッチの3つのタイプがあるが、ウイスキーのエントリーとして国産ウイスキーから試す人が約7割にもなる。原田氏はそんなエントリー層に、「雑味がなく、すっきり心地よい飲み口の富士御殿場蒸溜所のウイスキーは、好まれる傾向が高い」という。2022年、新たな事業戦略を展開する「陸」と「富士」ブランドが、これまでウイスキーを飲まなかった人にどれほど認知を深め、受容されるのか楽しみだ。

2022年の国産ウイスキーの売上として前年比+78%の42億円を目指す