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キリン「午後の紅茶」などでラベルレス飲料発売、ウエルシアとペットボトルのリサイクルでプラスチックの削減・循環を目指す

「ペットボトル=悪」ではない

2022年3月23日 発表

キリンがラベルレス飲料の発売とペットボトルのリサイクルの実証実験を発表

 キリンホールディングスは3月23日、プラスチック使用量削減に向けたキリンビバレッジのラベルレス飲料のネット販売と、ウエルシア薬局と協力した使用済みペットボトルのリサイクルの実証実験を発表。同日開いたメディアラウンドテーブルでその説明を行なった。

 ラベルレス飲料は「キリン 午後の紅茶 おいしい無糖 ラベルレス」と「キリン ファイア ワンデイ ブラック ラベルレス」で、5月24日にネット通販限定で発売。これにより年間約4.5トンのプラスチック使用量削減が可能としている。

 6月から順次始まるという実証実験では、埼玉県内のウエルシア約190店舖に設置した回収ボックスで使用済みペットボトルの回収・分別し、キリンビバレッジが、リサイクラーに供給したうえで再原料化・再生PETを使用した容器の飲料の製造までのリサイクル工程を管理していく。

「ペットボトル=悪」ではない

 登壇したキリンホールディングス CSV戦略部主幹の門脇寛氏は、「“ペットボトル=悪”の認識が広がるが、ペットボトルは環境課題の中では優秀な容器」という。ペットボトルのリサイクル状況や回収における課題などについて語った。

キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部主幹 門脇寛氏

 海洋プラスチック問題を機に、世界中がプラスチックを取り巻く環境問題にプラスチックを取り巻く環境問題に世界中が注目している。

 プラスチック製品生産量の中で樹脂別・用途別生産比率を見ると、ペットボトルは3.5%ほど。ポリエチレン(23.3%)、ポリプロピレン(23.2%)、塩化ビニル樹脂(16.5%)が多くの割合を占める。

 さらに、プラスチック類の漂流ゴミのうち、飲料用ボトルは7.3%で、漁網・ロープ、その他プラスチック(ライター・注射器・発泡スチロール片など)・ブイが8割を占めている。

 また、ペットボトルの有効利用率も98%で、安全性・保存性・利便性・リサイクル率・CO2排出量においても、“ペットボトルは便利で優秀な容器包装”と同氏は述べる。

プラスチックを取り巻く課題とペットボトル
ペットボトルとは、どのような容器か

 そして、ペットボトルのリサイクル状況についても、日本は2020年度は88.5%と世界最高水準のリサイクル率を維持している。

 ただ、「ペットボトルの持続的な循環」は未完成で、多くのペットボトルは1回しかリサイクルされていないという。

 ペットボトルが再びペットボトルに生まれ変わる“ボトルtoボトル”のリサイクル率は15.7%で、多くはシートや繊維のほか、リサイクルをすることによって元の品質よりも低下してしまうカスケードリサイクルが現状。

ペットボトルのリサイクル状況

 同氏は、「ペットボトルは分別・回収すれば再び資源となるため、廃ペットボトルのロスをなくし、回収し続けることが重要」という。そして、異物の混入によってリサイクルの品質や量に悪影響が出てしまうため、ペットボトルとして分別・回収すること、消費者と正しいプラスチックリサイクルやペットボトルの捨て方についてなど相互理解が必要とのこと。

 ボトルtoボトルのリサイクル率を上げること、ペットボトルの回収について課題があると述べた。

 そして、「ペットボトルの持続的な循環」に向けて、清涼飲料業界や社会での取り組みが進んでいるという。キリングループでは、「プラスチックが循環し続ける社会」を目指しており、持続可能な容器包装を開発して普及させ、資源循環システムを構築する、としている。

ペットボトルの回収における課題
清涼飲料業界や社会の動向
キリングループの環境への取り組み
「プラスチックが循環し続ける社会」を目指している

新容器の採用やラベルレス商品の発売でプラスチック使用量削減

 次に、プラスチックに関するキリングループの取り組みについて、キリンビバレッジ 企画部担当部長の大谷浩世氏が語った。

キリンビバレッジ株式会社 企画部担当部長 大谷浩世氏

「生茶」ブランドでは、4つの点においてリニューアルを行なう。
1.新容器のを採用し、パッケージのラベルを短尺化
2.「キリン 生茶 555mL」についても、再生PET樹脂を100%使用した「R100ペットボトル」の順次導入拡大を年内に実施
3.ラベルレス6本パック用の紙製包材を短尺化
4.角形ボトルを新たに採用

 これにより、約40%、年間約180tのラベルにおけるプラスチック使用量を削減し、1パレット当たりの積載効率が1.25倍へ向上するという。

2022年4月「キリン 生茶」リニューアル

 さらに、ラベルレス商品の選択肢を広げるために、「午後の紅茶」「ファイア」のラベルレス商品をEC限定で5月24日に発売する。これにより、年間約4.5tのプラスチック使用量削減が可能という。

「午後の紅茶」「ファイア」からラベルレス商品をEC限定で発売

 また、メカニカルリサイクルによるボトルtoボトルの実現をするために、「キリン 生茶デカフェ」を2019年6月より、R100ペットボトル化をしており、2021年以降も「生茶」ブランドで導入を拡大し、石油由来樹脂使用料・CO2排出量の削減を進めていくとしている。

 そして、大型ペットボトル軽量化にも取り組んでおり、2003年から2019年で34.7gの軽量化を実現した。軽量化しても強度が保てるスパイラル型の溝を採用し、従来に比べてペット樹脂の使用量を年間983t削減可能に。ワイン用ペットボトルも軽量化しており、メルシャン「おいしい酸化防止剤無添加ワイン」スタンダードシリーズ720mLペットボトルを従来の34gから29gへ約15%軽量化した。

 そのほか、飲料の自動販売機のサンプルにカード仕様の商品サンプルを採用することで、従来の商品サンプルで使用していた年間プラスチック使用量を約60%削減した。

ボトルtoボトルの取り組み
大型ペットボトル軽量化の取り組み
その他の事例

ローソンとウエルシアでの「ペットボトル回収」の取り組み

 続いて同氏は、ペットボトル回収についてローソンとウエルシアでの取り組みを紹介。

 ローソンでの「ペットボトル店頭回収実証試験」では、キリンがペットボトルを回収し、独自開発した回収機のローソンに設置。集めたペットボトルは、東京キリンビバレッジサービスの自販機ルートを使って収集、リサイクラーへ搬入するというもの。

 回収対象のアイテムは、「100mL~2Lまでの容量のラベル・キャップを外したペットボトル」で、2021年7月~9月上旬までのペットボトル回収状況では、97%がラベル・キャップの付いていないペットボトルで回収できており、異物の入ったペットボトルも投入されていないという。

 今後は、一般メーカーの回収機を使用し、キリンビバレッジが独自開発した回収機と比べてコストなどを検証していくという。

キリン・ローソン ペットボトル店頭回収実証実験
ペットボトル回収機 装置仕様
ペットボトル回収機 設置後の状況

 また、ウエルシアと実証実験を埼玉県内の約190店舗で6月より行なう。ウエルシアで使用済みペットボトルを店頭回収し、物流センターまで収集。中間処理、リサイクルを経て、キリンが商品化したものをウエルシアで商品販売するというもの。

 ボトルtoボトルのリサイクルモデルを確立し、実証実験の結果検証を経て、同エリア内のドラッグチェーン業界に対象を広げ、将来的にはほかの小売業界も含め、業界を問わず活動の規模を拡大させていく予定という。

キリン・ウエルシア 回収取り組み

「プラスチックが循環し続ける社会」の実現には“ケミカルリサイクル”の活用が重要

 最後に、キリンホールディングス R&D本部パッケージイノベーション研究所主務の大久保辰則氏より、ケミカルリサイクルについて説明があった。

キリンホールディングス株式会社 R&D本部パッケージイノベーション研究所主務 大久保辰則氏

「プラスチックが循環し続ける社会の実現にはケミカルリサイクルを活用した使用後~再生までのプロセス構築が重要となる」と語る。

 ケミカルリサイクルとは、廃ペットボトルを選別・粉砕・洗浄して、汚れや異物を取り除いた上で、解重合(化学分解処理)を行ない、ペットの分子レベルまで分解・精製したものを再びペットに合成する技術。繰り返しリサイクルしても品質劣化がなく、原料はペットボトル以外の携帯(フィルム・シート)の素材も使用できる強みがある。

 現在の導入状況は、国内では1社が実用化しているものの、再生ペットボトルとしての流通量は少なく、コスト面が課題という。

 キリンと三菱ケミカルは2020年2月より基礎から技術開発をしており、品質と経済性、環境調和性を両立できる技術を磨いていくとしている。ペットボトルの安定回収と解重合の最適化の難易度が高く、現在は解重合技術の実用化に向けたパートナー探索・技術検証をしているという。

 そして、リサイクル量の拡大に向けて、ペットボトル樹脂以外のPET樹脂の再資源化を実施し、ペットボトルにとどまらず「ペット全体の循環利用」を目指すという。

プラスチックが循環し続けるには?
メカニカルリサイクルとケミカルリサイクル
ケミカルリサイクルで実現できること
キリン・三菱ケミカルの技術開発
ロードマップ
進捗状況

 また、2022年1月より静岡大学と酵素によるPETリサイクル技術の確立に向けた共同研究を開始している。ケミカルリサイクルには、加熱処理や金属触媒を用いた分解する手法である「化学分解法」(~300℃)と酵素を触媒として、温和な条件で分解する「酵素分解法」(~70℃)の2種類ある。酵素分解法は、比較的低温で分解できるためエネルギーの使用量が少ない。

酵素でパットボトルをリサイクルする技術
静岡大学とのPET分解酵素の共同研究(概要)

 そのほか、キリンとファンケルはケミカルリサイクルに関する連携を開始しており、2021年1月よりキリンビバレッジのペットボトル入り清涼飲料の生産時に排出されるキャップを再生樹脂に加工した素材をファンケルのグループ会社アテニアの化粧品容器の一部に採用し、順次切り替えている。

 これにより、キリンビバレッジはペットボトルのキャップ約3~4割の再利用を実現し、アテニアは再生樹脂を採用することで、従来同製品に使用していた新規プラスチック量の約4割を削減したという。

キリン・ファンケル ケミカルリサイクルに関する連携開始

 これからキリンが取り組んでいくことは、容器・包装において、使用しているプラスチック包装の代替素材の探索や実装、R100ボトルの導入を段階的に進め、ケミカルリサイクルの取り組みを加速させ、使用済みペットボトルの回収ルートを拡大していくという。

これからキリンが取り組んでいくこと