ニュース
「サントリーウイスキー100周年会見」で語られたウイスキー事業方針
山崎蒸溜所・白州蒸溜所に100億円規模の設備投資を実施
2023年2月2日 20:08
- 2023年2月1日 発表
サントリーは2月1日、サントリーウイスキー100周年を記念する記者会見を開催した。記者会見では、サントリーウイスキーのこれまでの歴史と2023年のウイスキー事業方針が明らかにされ、ウイスキーのテイスティングも行なわれた。
鳥井信治郎氏の日本でウイスキーを作りたいという強い情熱で山崎蒸溜所を建設
会見ではまず、代表取締役社長の鳥井信宏氏がサントリー創業から同社とウイスキーの関わり、これからの方針についてプレゼンテーションを行なった。その要旨は以下の通りだ。
サントリーの前身である鳥井商店は、1899年に鳥井信治郎氏によって創業され、1907年発売の「赤玉ポートワイン」が大ヒットした。鳥井信治郎氏は、当時から日本で本角・本物のウイスキーをつくりたいという強い意志を持っており、周囲の反対を押し切って1923年に山崎蒸溜所の建設に着手した。サントリー初の本格国産ウイスキーが1929年に発売された「白札」である。しかし、当時の日本人はウイスキーの味に慣れておらず、ウイスキーの熟成香が「焦げ臭い」とか「煙臭い」などと言われ、あまり売れなかった。しかし、鳥井信治郎氏は諦めず、日本人の味覚にあう香味を追求し、1937年に「角瓶」を発売。角瓶は、日本人に受けいれられ、現在でも人気のベストセラー製品となった。食事にあうとして人気の角ハイボールも、角瓶を使ったハイボールだ。
サントリーは創業以来、美味品質に対し強い情熱を傾けてきており、その要となるのが、ブレンドの責任者であるマスターブレンダーとチーフブレンダーとされる。現在マスターブレンダーを務めている鳥井信吾氏は3代目のマスターブレンダーであり、チーフブレンダーはこれまでに5人任命されている。サントリーはウイスキーの美味品質を追求するために山崎蒸溜所に続いて、白州蒸溜所と知多蒸溜所を建設。1980年代に、山崎蒸溜所と白州蒸溜所の大規模改修を行ない、その成果が、山崎12年と白州18年のISCゴールド受賞として現れた。これからの100年にむけて、再度、白州と山崎の両蒸溜所の大規模改修を行なっているところだ。
山崎蒸溜所と白州蒸溜所の工場長がリモートで参加
続いて、山崎蒸溜所と白州蒸溜所の工場長がそれぞれの蒸溜所からリモートでプレゼンテーションを行なった。
山崎蒸溜所工場長の藤井敬久氏は、山崎蒸溜所は、桂川、宇治川、木津川の3つの川が近くを流れる、湿潤でウイスキーの熟成に適した地にあると説明した。山崎蒸溜所では、今回の大規模改修で、大麦を床にまいて発芽させて麦芽をつくる伝統的な製法である「フロアモルティング」を導入するほか、パイロットディスティラリーと呼ばれる小規模蒸留施設の改修を行ない、直火加熱だけでなく、電気式加熱も可能な蒸留釜を導入する。
白州蒸溜所工場長の有田哲也氏は、白州蒸溜所のコンセプトは「森林公園工場」であり、さまざまな野鳥の観察が可能なバードサンクチュアリもあると説明した。白州蒸溜所も、魅力訴求を強化するためにリニューアルが進められており、2023年秋頃完了予定であるとのことだ。
2010年頃からハイボールムーブメントが起こり、ウイスキー市場が右肩上がりに
次に、サントリー 取締役常務執行役員 スピリッツカンパニー社長の森本昌紀氏が、ウイスキー市場の推移と2023年のマーケティング方針や2023年上期の製品展開についてプレゼンテーションを行なった。その要旨は以下の通りだ。
日本のウイスキー市場は、戦後復興期から高度成長期にかけてどんどん伸びていったが、1983年をピークにその後25年間もダウントレンドとなった。しかし、2010年頃からハイボールムーブメントが起き、再び右肩上がりとなった。
創業者の鳥井信治郎が目指したものは、「世界に通じる本格・本物の洋酒作りへの挑戦」と「日本で洋酒文化の浸透への挑戦」であり、戦後復興期の市場の伸びはその努力によるものだ。その鳥井氏の意志を継ぐ、100周年を迎えるウイスキー事業の今後の方針は、「品質向上」と「需要創造」である。
前者の具体策が山・白州両蒸溜所の改修と料飲店での「飲用時品質」の向上であり、後者の具体策が「ハイボールをソウルドリンクに」というハイボール活動の強化である。
1980年代にも山崎・白州両蒸溜所の大規模改修を行なっており、それがその後の世界的な品質評価につながったが、再び100億円規模を投資し、「品質向上」と「蒸溜所魅力訴求」に向けた大改修を行なう。山崎蒸溜所では、フロアモルティングやパイロットディスティラリー、新たな飲用体験の場などが改修の目玉であり、白州蒸溜所では、フロアモルティングや酵母培養プロセスの導入、森が見えるテイスティングカウンターなどが改修の目玉だ。
近年人気のハイボールの2023年マーケティング方針は、「飲用時品質の向上」と「三位一体での接点強化」である。現在、ハイボール缶の市場のほとんどをサントリーが占めている。また、数量限定で6月6日に「プレミアムハイボール白州」が発売されるほか、2023年秋には「プレミアムハイボール山崎」を発売する予定だ。ハイボール缶開発に込められた想いは「日本人の味覚にあうウイスキーをつくりたい」「ハイボールを日本のソウルドリンク」にというものであり、主力の角ハイボール缶も2023年1月にリニューアルし、炭酸ガス圧が強化され、缶のデザインも限定デザインに変更されている。また、サントリーウイスキー100周年記念蒸溜所ラベルが貼られたサントリーシングルモルトウイスキー「山崎」「白州」が発売される。
チーフブレンダー福與氏の指導でテイスティング
最後に、チーフブレンダーの福與氏が登場し、ISC2022で白州25年がジャパニーズウイスキー部門で最高賞となる「トロフィー」を受賞、同時にジャパニーズウイスキー部門で3年連続「プロデューサーオブザイヤー」を受賞したことを報告した。
その後、サントリーが誇るシングルモルトウイスキー「山崎12年」と「白州25年」のテイスティングのための時間が用意された。出席者のテーブルの上には、それぞれ「山崎12年」と「白州25年」が入ったテイスティンググラスが置かれており、壇上にいる鳥井社長以下3名と一緒にテイスティングを行なうことになった。
山崎12年は、スモーキーで多層な香りを持つ、骨太なウイスキーであり、まさにウイスキーが好きな人が愛好する味わいであった。それに対し、白州25年は、スモーキーさはそれほど強くなく、フルーティで滑らかな口当たりであった。どちらもサントリーを代表するウイスキーであり、海外で高い評価を受けていることも納得できた。しかし、これらのサントリーの高級ウイスキーは、品薄で入手しにくくなっており価格が高騰しているものも多い。
質疑応答も行なわれ、その中でウイスキーの市場価格高騰についての質問もあった。それに対し、鳥井社長は「需給のギャップで価格が高騰しているものがあることは認識している。しかし、ウイスキーは熟成が大切であり、急に出荷量を増やすことはできないが、現在熟成中のウイスキーは毎年毎年増えており、いずれは需給ギャップも解消すると思われる」と答えた。
また、今後のサントリーウイスキーの展望について、鳥井社長は「日本洋酒製造組合が制定した自主基準『ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準』が、2024年4月1日から完全適用されることになり、今後はジャパニーズウイスキーがさらに世界中で評価されるようになるだろう」と答えた。