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キリン、プラズマ乳酸菌の菌体製造工場に潜入
小岩井東京工場の見学コースも体験
2023年12月7日 10:20
- 2023年12月4日 取材
キリンホールディングスは12月4日、「プラズマ乳酸菌菌体製造工場および小岩井東京工場見学イベント」を開催。埼玉県狭山市にある「iMUSE(イミューズ)ヘルスサイエンスファクトリー」と小岩井乳業東京工場の見学会を行なった。
キリンがヘルスサイエンス領域に注力する理由
キリングループは長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」で、「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことを掲げている。CSV(Creating Shared Value)とは、お客様や社会と共有できる価値の創造のことで、お客様の健康課題に取り組むと共に、キリン自体の事業を拡大していく相互利益の経営を目指す。
その中で注力しているのがヘルスサイエンス領域の規模拡大で、なかでも“免疫”を最重点領域と位置付ける。免疫は人間に本来備わっている防御システム。身体の中の免疫細胞が正常に働いて健康を維持することで、外敵から身体を守ってくれる。このため健康のためには規則正しい生活習慣と免疫ケアが重要になる。
「私たちは免疫を健康の土台だと考えています。ただ、一般のお客さまには健康課題として免疫ケアの意識はまだまだ低いものになっています。お客さまに免疫の重要性を伝えるとともに、免疫ケアを習慣にしてもらいたいと考えています」と、見学会でプレゼンテーションしたキリンホールディングスの鈴木侑磨氏。
免疫ケアに活用されるのが、キリンの独自素材であるプラズマ乳酸菌だ。免疫には上下関係があって、司令塔となる細胞と実際に働く細胞に分かれている。その司令塔となるのが通称pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)と呼ばれる細胞で、2012年にキリンが世界で初めてpDCを直接活性化できる乳酸菌としてプラズマ乳酸菌を発表した。
一般的な乳酸菌が一部の細胞のみを活性化するのに対して、プラズマ乳酸菌はpDCを直接活性化するので広範囲の免疫を活性化できる。健康な人の免疫機能の維持を効率的にサポートできるところが利点だ。
2020年8月には、免疫が機能性表示食品として日本で初めて消費者庁に受理され、2021年よりプラズマ乳酸菌商品の販売を開始した。そこから約2年が過ぎ、現在ではプラズマ乳酸菌を配合した商品を、キリンとパートナー企業12社の双方から展開し、57商品まで拡大。今年1~10月の売上金額も前年比4割増と好調に推移する。
プラズマ乳酸菌は国内に止まらず、海外にも展開。ますますの事業拡大に向けて、「iMUSEヘルスサイエンスファクトリー」の製造設備を増設し、昨年の2倍に拡大した。今回はその施設を見学し、プラズマ乳酸菌の菌体製造工程を実際に見ることができた。
プラズマ乳酸菌の菌体製造工程を見学
菌体製造工程は大きく分けて、増やす、集める、乾かす、詰めるの4工程。わずか数ミリのタネと呼ばれるものをタンクで培養して、製品化するまでには数日を要する。「この培養技術に小岩井乳業とキリンのノウハウが凝縮されています」と、小岩井乳業 東京工場の根子部長は言う。4つの工程では次のようなことを行なう。
増やす
培養タンクで乳酸菌を増やす。タンクには培地(ばいち)と呼ばれる乳酸菌のご飯が入っていて、その内容は糖、タンパク質、ミネラルなど。栄養を与え、適度な温度にすると菌が増える。「iMUSEヘルスサイエンスファクトリー」では温度のほかに水素イオン濃度(pH)と酸素濃度もコントロールして、効率的に乳酸菌を増やしている。培地はもともと透明な麦茶のような色だが、乳酸菌が増えてくるとミルクティーみたいな色に変わる。
集める
お椀を逆さまにしたような形の遠心分離機で乳酸菌を集める。遠心分離機では複数の鉄の丸い板がぐるぐる回り、培養した液が入ると、比重が重い乳酸菌は外側に集められる。そこで乳酸菌とそれ以外を分離させ、集めた乳酸菌を水で洗う。できあがった乳酸菌はお好み焼きのタネみたいなもので、分量は当初の1/20くらいになる。
小岩井乳業が生乳にこだわる理由
キリンのプレゼンテーションパートの後には、小岩井乳業について紹介された。小岩井の経営理念は、“大地の恵みを大切に、お客さまの「おいしい」「うれしい」の期待にこたえ続ける”こと。これは小岩井の原点が小岩井農場にあるから。小岩井農場は岩手県岩手郡雫石町に約3000ヘクタールという広大な広さを誇る、日本最大級の民間総合農場。創業は1891年(明治24年)で、もともとこの地は草木もまばらな火山灰地だったそう。
「小岩井を場所の名前だと思う人が多いのですが、実は共同創始者の3名の頭文字をとって“小岩井”と命名されました」と、小岩井乳業 東京工場長の佐藤氏。共同創始者のひとりである鉄道庁長官の井上勝氏が、「このような場所に農場を作ると、鉄道敷設で自然を壊した恩返しになるのでは」と考え、その思いに日本鉄道会社副社長の小野義眞氏、三菱社社長の岩崎彌之助氏が賛同したのだそう。
小岩井乳業のルーツは、この農場で育てた牛から採れた牛乳を販売したのが始まり。一番大事な原材料は生乳であることから、経営理念に“大地の恵み”を掲げ、生乳100%のヨーグルトにこだわって販売を続ける。
キリンとの繋がりは1976年(昭和51年)からで、小岩井農牧とキリンビールが折半出資で小岩井乳業を設立したのが始まり。東京工場は1966年に操業を開始し、現在では発酵乳と乾燥乳酸菌粉末を製造する工場として稼働している。
小岩井乳業 東京工場のヨーグルト製造ラインを見学
小岩井東京工場では、消費者にさらに小岩井乳業を知ってもらうため、ヨーグルト製造ラインの見学コースを整備。完成がちょうどコロナウイルス感染拡大時期だったこともあり、まだグランドオープンはできていないそうだが、その見学コースを体験することができた。見学コースの一部が東京工場で働く従業員の動線と共通のため、オープンはその課題を解決した後になるという話だ。
ヨーグルトができるまでには、大きく6つの工程がある。原乳受け入れ、均質化・殺菌、発酵、充てん・包装、冷蔵保管、出荷だ。見学コースは前工程と後工程の2つに分かれ、最初に小岩井乳業のイメージキャラクタ-「もーもー」による紹介ビデオを観賞することで、ヨーグルトの製造工程を詳しく知ることができるようになっている。その後、見学コースからガラス越しに工場内部を見学し、スタッフから説明を聞くという流れだ。
前工程では、原乳受け入れ、均質化・殺菌、発酵までを紹介。受け入れた原乳は品質や状態をチェックし、合格したらタンクに送られる。次の工程の均質化では粒の大きさがバラバラの原乳を、細い管の中を通すことで粒の大きさを揃えていく。その後、温度を130℃まで上げて殺菌。乳酸菌を加えて発酵させるのだが、小岩井ではタンクの中でゆっくり発酵させる長時間前発酵製法という作り方のため、ヨーグルトが滑らかに仕上がるのだそう。
後工程では、充てん・包装、冷蔵保管、出荷について紹介。ヨーグルト充てん工程と包装工程のスペースは厳密に分離され、特に充填エリアでは外からのゴミやウイルスを持ち込まないよう、徹底した衛生管理が行なわれている。発酵が終わったヨーグルトはタンクの中で撹拌し、フィルターを通して容器に充てん。正確な量のヨーグルトを充てんするため、2回に分けて入れる。なんと1時間で1万2000個の容器にヨーグルトを充てんできるのだとか。包装工程ではできあがったヨーグルトが瞬時に段ボールに箱詰めされていく様子を見ることができた。
できあがったヨーグルトは冷蔵倉庫で出荷を待つのだが、出荷前にももう一度、味、成分、滑らかさについて厳しい検査を行なっている。「充てんは大きな容器のもの、小型の容器のもの、ストローを付けるものなど、3つのラインで行っています。合計して年間4000万個くらい製造していますが、まだまだ余力があります」と、見学コースを案内してくれた東京工場の柳澤部長は言う。
最後に3種類のヨーグルトを試食することができた。生乳だけをじっくりと発酵させた「小岩井 生乳100%ヨーグルト」は、実に滑らかでスッキリした味わい。プラズマ乳酸菌が1000億個含まれた「小岩井 iMUSE生乳ヨーグルト甘さ控えめ」と、3月に発売された「小岩井 iMUSEヨーグルト砂糖不使用」を食べ比べできたのも面白かった。いずれもほど良い酸味で滑らかで味わいやすく、「砂糖不使用」はより乳本来のおいしさが感じられた。
小岩井東京工場の見学コースでは、ヨーグルトに対する多くの知識を得ることができた。グランドオープンの時期は現時点では未定なので、公開の情報を心待ちにしたい。