突撃!グルメ探検隊

キリンの研究者が語る「プラズマ乳酸菌」の本当のところ

プラズマ乳酸菌

 最近、タモリさんのテレビCMなどでも目にするようになった「プラズマ乳酸菌」。どうやら普通の乳酸菌と違うらしいが、何が違うのかはよく分からない。

 そこで本誌では、プラズマ乳酸菌の商品化につながる研究を行なってきたキリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部部長 兼 R&D本部 キリン中央研究所 リサーチフェローの藤原大介氏に突撃取材を敢行した。今回は一問一答形式の臨場感とともにお楽しみいただきたい。

免疫の司令塔を動かす「プラズマ乳酸菌」

キリンホールディングス ヘルスサイエンス事業部部長 兼 R&D本部 キリン中央研究所 リサーチフェローの藤原大介氏

――まず最初にそのプラズマ乳酸菌って何っていうところなのですが、簡単に教えていただけますか。

藤原氏
 ウイルスに対する免疫というのは人間の体にはあるのですが、一般の方によく知られてないのが、そのウイルスに対する免疫と、細菌に対する免疫の違いです。

 ばい菌というと、ウイルスと細菌は同じと認識されているのでは無いかと思いますが、全然違うものです。担当する免疫が違うんですよ。そのウイルスに対する免疫を活性化することができる唯一の乳酸菌がプラズマ乳酸菌です。

――通常の乳酸菌とは、どう違うんでしょう?

藤原氏
 免疫を例えると司令塔と実働部隊という二重構造になっていて、会社のように上位にいる、経営をやってる人たちと、その指示を受けて、メンバーとして働く人たち、この2種類に分けられます。

 普通の乳酸菌というのは、指示を受けて動く免疫細胞内のさらにその一つにだけ働きかけることができるのですが、それは実はどんな乳酸菌でも同じです。どの乳酸菌もNK細胞という免疫細胞の活性化はできると言われています。

 ただ、その上位にいる司令塔の免疫細胞っていうのを活性化するのが大変なことなんです。

 私も研究を始めたときに、免疫ってそんな二重構造になっているんだっていうことを知りまして、だったら、そんな下の方細胞よりも、上のリーダーを活性化できたらいいだろうな、と思って研究を進めていたら、そしたらそれが見つかったと。

 なので、普通の乳酸菌よりもパワフルということですね。

――だいたい会社でも偉い人を動かすのは大変というところがありますが(笑)、それに成功したと。

藤原氏
 はい、そうです(笑)。

免疫の司令塔「pDC(プラズマサイトイド樹状細胞)」を活性化

研究で一番大変だったのは社内の司令塔の説得

――いつ頃から研究をされていて、いつ頃これは行けるぞという手応えを感じられたんでしょう?

藤原氏
 2005年から2007年までアメリカに留学していた時です。そこで、世界最先端の免疫学の研究をしていて、今回の主役になる「pDC」という免疫細胞の研究をしていました。

 その時は基礎研究なので、ただひたすら基礎研究をやっていたんですが、もっと一般の人にこの価値が届くような、わかりやすい形で、これを活性化できるようなものを見つけた方がいいのではないかとすでに思っていたんです。

 日本に帰ってきて、2008年からpDCを活性化できる乳酸菌を探索開始し、実用化に取り組むことにしました。そして、対外的に発表したのが2010年です。

――研究の段階で一番大変だったのはどんなことなのでしょうか。

藤原氏
 実はこれ、大変だったことがないんですよね……。

――えっ、そうなんですか? 紆余曲折やそれを乗り越える感動のストーリーを想定していたのですが(笑)。

藤原氏
 研究というのは何でもそうだと思っているのですが、コンセプトが当たっていたら、苦労しないんです。だいたい最初に考えたコンセプトでほとんどもう決まってしまう。決まっていて、見つからないときって、もうそのコンセプトが良くないので、永遠に苦労するけど見つからないというパターンにハマるんですよね。なので、今回の研究は実はそんなに苦労していないんですよ。

 ただ、あったとすれば、会社がまだその時に健康領域が研究の対象じゃなかったっていうところですかね。

――それこそ社内の司令塔を説得して活性化するのが難しかったと。

藤原氏
 その通りです(笑)。

 当時まだアルコール飲料や清涼飲料の研究開発が中心だったので、この辺の科学の研究というところに対しては、あんまり会社としてメインではなかったという時代があったんです。

――最近はやりやすくなりましたか?

藤原氏
 はい。ヘルスサイエンス事業をもう一つの柱としていくことを明言していますから、ずいぶん変わりましたね。

まずは1日1個の2週間継続を

――本題に戻りますが、プラズマ乳酸菌の摂取の目安というのはありますか?

藤原氏
 これはヒト試験でも確認をしていますが、一番短い期間で2週間投与すればよいということがわかっています。今、飲料やヨーグルトなど、さまざまな形で機能性表示食品として販売されていますが、実は入っている量は全部同じで1000億個です。それぞれ1日1つずつ、それを2週間継続すると効果が出始めます(※それぞれの商品に目安が記載されている)。

 安全性の試験もやっていますので、とくに副作用はありませんが、5本飲んだから5倍効くかというと、そんなことはないので、1日1本を目安に毎日継続いただければと思います。

iMUSEブランドの商品群
プラズマ乳酸菌入りの「午後の紅茶」や「生茶」も販売されている

――藤原さんとして、どんなことを次の課題にしているのでしょう?

藤原氏
 プラズマ乳酸菌は、私がやっていた多くの研究テーマの中の1つでしかなくて、例えば、他にも「KW乳酸菌」という乳酸菌があるのですが、これはアレルギーだとか、最近では目の疲労感に効果があることを証明している乳酸菌になります。

 それから、「麹ステロール」というものがありまして、麹菌の中にしか入っていない特別なステロールというような物質があるんですけれども、これが免疫を調節するってことを見つけたんです。現在は化粧品での活用に繋がっているのですが、もっといろんな活用法があるのではないかと思っていますね。

 そんな風にいろいろな免疫関係の素材を見つけているので、これからもそれらを活用して事業化をしていきたいと思っていますし、会社としても「免疫といえばキリン」というイメージが高まるようなブランディングをしたいと考えています。

どうやって作られるの?

――素朴な疑問として、プラズマ乳酸菌って、どうやって作られるものなんですか? パウダー状で、いろんなものに入れられるということですが。

藤原氏
 我々の場合、プラズマ乳酸菌の粉末自体を原料として作っています。培地というものの中に入れて作ります。培地というのは、微生物が増殖する栄養などが含まれた液体です。その中に菌を植えると、菌だけが増えていきます。それを遠心分離して、栄養素のいらなくなった部分を捨てると、沈殿して残るのがプラズマ乳酸菌の菌体です。それを水で洗って、ドライアップして粉末にして、飲料とか、いろんな食品に入れられるようにしています。

――なるほど。しかし、そもそも乳酸菌って、ビールの敵みたいな扱いで研究をスタートしたという話も聞いたのですが、そういう意味では、ビールに入れるのは難しいものなんですか?

藤原氏
 これまたすごくいいご質問なんですけど、随分前になりますが、さきほど紹介したKW乳酸菌でビールを作ったことがあるんですよ。たしか2004年だったと思いますが、「やわらか」という発泡酒を出しました。

 それはもう本当に常識外れなことをやったんです。先ほどおっしゃっていましたが、乳酸菌はビールの大敵なんです。だから、ビール工場に菌を持ち込むなんて、絶対にやってはいけないことと言われていましたが、あの当時、実験工場のようなものがありまして、絶対にほかのビールに触れ合わないというような設備を作って、その中でKW乳酸菌を発泡酒の発酵に混ぜて作ったということがありました。

 これは、乳酸菌なので、ちょっと酸っぱい感じの爽やかな風味で、スッキリ系の発泡酒ができて、とても変わった味でおいしかったですね。

 なので、おそらくプラズマ乳酸菌でも、やればできるんじゃないかと思います。ヨーロッパなんかだと、オープンで発酵するような発酵槽もあって、そうすると空気中の乳酸菌なんかも入ってくるので、乳酸菌も酵母と一緒に混ざっているようなビールが結構あるんです。日本のビールは品質管理が第一なので、厳格に酵母だけを使って、ほかのものは一切入れず、リスク管理を完璧にするというところが一般的ですが。

――プラズマ乳酸菌が入ったビールやお酒が出てきたら、それを言い訳に毎日飲んでもいいんだよね、とお酒好きの口実にもなりそうです(笑)。

藤原氏
 それはまずいですね(笑)。酒類メーカーの責任として、飲酒の言い訳に使われるような商品展開は考えていません。飲んだら免疫上がるから、俺は今日も飲むんだよ、っていうことは、間違ってもやって欲しくないですね。

凍らせるのはOK、沸騰はNG

――実際に販売されているプラズマ乳酸菌入りの飲料なんかを見て思うのは、何か沈殿してるなと感じることもあるのですが、これはそういうものなのでしょうか。

藤原氏
 成分が沈殿してみえることはあるかもしれません。飲料のパッケージにも記載していますが1~2回振ったらきれいに混ざるので、振ってからお飲みいただければと思います。多くの菌は振ってもなかなか混ざらなかったりするので、これも開発の成果ですね。

――加熱したり凍らせたりしても大丈夫なんでしょうか?

藤原氏
 おすすめはしていませんが、凍らせるのは大丈夫です。加熱については、50度くらいにちょっと温めるぐらいならいいですが、沸騰させるようなことはして欲しくないですね。温めすぎると菌が壊れる可能性があります。

――そうすると、今はプラズマ乳酸菌入りの「午後の紅茶」や「生茶」もありますが、ホットの商品を出すのは難しいのでしょうか。

藤原氏
 その辺の飲料の技術については今日は申し上げられないですが、そんな簡単ではなさそうです。

コロナには効くの?

――やはり免疫というと、今はコロナ禍ということもあり、対コロナという期待感もあります。研究は進んでいるんでしょうか?

藤原氏
 昨年12月に発表したとおり、国立感染症研究所と長崎大学の医学部とコロナの研究をしています。ただ、これはあくまで医薬品の可能性を探る位置づけです。

 インフルエンザを駆逐するメカニズムはコロナも基本的には同じなので、理論的には考えられます。

 まだ研究を始めたばかりなので、プラズマ乳酸菌がコロナに効くということは全く言えません。

プラズマ乳酸菌で「体が資本」を実証

――ちなみに、藤原さんが一番気に入っているプラズマ乳酸菌入りの商品はどれですか?

藤原氏
 そうですね……僕はとにかくカロリーを摂りたくないんです。なので、まずは「キリン iMUSE 水」です。あとはサプリメントですかね。

――ストイックですね(笑)。

藤原氏
 お酒はあまり飲めないんですけど、過去にはタバコも吸っていましたし、ただ太りたくないなっていうのはあって。コロナで在宅になってから結構太ったんです。そうすると着る服がなくなって、やっぱダメだなと思いまして(笑)。

――私なんかもそうですが、テレワーク中心の働き方になったIT系の人は気をつけないといけませんね。

藤原氏
 実はヤフーさんとの共同研究もありまして、ヤフーさんの社員食堂でプラズマ乳酸菌のヨーグルトを配ったんです。何を調べたかというと、WHOが提唱している概念なんですが、労働の生産性や効率を図れるようにしていて、プラズマ乳酸菌を飲んでいる期間、何%ぐらい労働効率が上がりますか、という実験をやったんです。

 プレゼンティーイズムといって、十分な休みをとらずに毎日会社に来ている社員の生産性が低い場合があり、ここをいかに改善するかということが大事になると言われています。

 そこで、プラズマ乳酸菌を飲むグループと飲まないグループに分けて、労働パフォーマンスを測ったんです。そしたら、飲んでいる方はパフォーマンスが5%上がったと。

 通常、パフォーマンスを改善するには、運動をしたり、カウンセリングを受けたりという手法が用いられると思いますが、それにはコストがかかる。プラズマ乳酸菌を摂取するだけで改善できるということを証明したんですね。

ヤフーとの共同研究

 日本人の平均年収が400万円ぐらいだとして、生産性が5%向上すると、20万円ぐらいの価値をプラズマ乳酸菌を摂取するだけで生み出せるというような解釈もできます。健康経営は、お金に換算できるところが重要で、そういう見せ方もできるんじゃないかと思い研究しました。

――昔から体が資本と言われますが、面白いですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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