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メルシャン、日本を世界の銘醸地に「日本ワイン応援事業」開始。北海道・美瑛ファームとの事例を紹介

2026年4月20日 発表
メルシャン「日本ワイン応援事業」発表会

 メルシャンは4月20日、日本ワイン産業の発展と市場のさらなる活性化を目指す新たな取り組みとして「日本ワイン応援事業」を開始したことを発表した。2022年より展開してきた日本ワインの「コンサルティング事業」を環境の変化に合わせて進化させ、サポート範囲や対象を拡大する。

 発表会では経営企画部の田村隆幸氏が登壇して概要について説明し、苗木の植栽からメルシャンに関わってもらう美瑛ファームを経営する西川隆博氏がゲストとして招かれ、これからの展望について語った。

幅広い分野の課題解決を目指す「日本ワイン応援事業」

 田村氏はまず、日本ワイン(国産ブドウを使用した国内醸造ワイン)の現状について説明した。日本ワインは近年注目度が高まっており、佐賀県(現在準備中のワイナリーあり)を除く全都道府県でワイナリーが設立され、現在500を超える状況となっている。輸出も始まっており、過去10年で3.5倍に伸長し、海外からも注目を集めている。

メルシャン株式会社 経営企画部 田村隆幸氏
ワイナリーが増え、輸出が伸長している日本ワイン

 その一方で課題も存在し、国税庁のアンケートデータをもとにした調査では、9割が小規模事業者であり、「そのうち44%はあまり儲かっていない」と収益性に課題を抱えていることを指摘した。ワイナリー数は増加しているものの、収穫量は微減傾向にあり、ブドウの増産が追いついていない状況も問題として挙げた。

収益性の低いワイナリーも多い

 その課題については、「収益構造の脆弱性」「技術・人財の不足」「農業の構造上の課題」「販路・マーケティング力の弱さ」を挙げた。具体的には、ブドウ栽培からワイン完成まで5年ほどかかり、現金回収には5~6年かかることから「現金回収率が非常に悪い」点や、日本産ブドウ使用という制限による原料代替性の低さなども課題であると話した。

日本のワイナリーが抱えている課題

 メルシャンは2022年から栽培醸造を中心としたコンサルティング事業を展開してきたが、今月からは「日本ワイン応援事業」と名称を変更し、事業範囲を拡大することを発表した。シャトー・メルシャンのビジョン「日本を世界の名醸地に」の実現を目指すことで、「メルシャンにとっても事業として意味があるし、日本ワイン全体を盛り上げていくことが私たちリーディングカンパニーとしての役割だと考えています」と話した。

コンサルティング事業の概要

 メルシャンの150年におよぶワイン醸造経験により蓄積された人的・技術的無形資産をほかのワイナリーに提供する取り組みについても紹介した。今までコンサルティング事業を手掛けたワイナリーや自治体は13か所を数え、コンサルティングの事例として6か所のワイナリーを紹介した。それぞれが直面していた課題を解決することにより、収穫量の増加、ワイン品質の改善、コンクールの受賞など、成果も公表した。

コンサルティング事業の実績
メルシャンがアドバイスを送ったワイナリー6社の代表も出席。左から「ラベンダーファーム&ワイナリー」(福岡・北九州市門司区)、「マシューズワイン」(千葉・館山市)、「Hinoeワイナリー」(栃木・宇都宮市)、「仙台秋保醸造所」(宮城・仙台市)、「MKファームこぶし」(岩手・花巻市)、「アールペイザンワイナリー」(岩手・花巻市)
コンサル内容と成果・その1
コンサル内容と成果・その2
それぞれのワイナリーが手掛けたボトル

 今回発表した「日本ワイン応援事業」では、「コンサルティング事業」のサポート範囲の拡大、「共同調達ビジネス」の開始、新規事業「あなただけのワインづくり体験」を柱として取り組む。コンサルティング事業では、ブドウ植栽前からのサポート開始により、問題発生後の対応だけでなく予防的支援も実現する。共同調達ビジネスは、メルシャンがハブとなって、ワイナリーとサプライヤーを効率的に結び付け、購買力を活用したボリュームディスカウントを提供する。新規事業は、ワインツーリズムの受託事業を手掛けるもので、花巻市にある「アールペイザンワイナリー」で実証実験をすでに始めていると説明した。

今後は日本ワインに関わる多くの課題に対応する
「日本ワイン応援事業」概要

 田村氏は従来の「ピア・ツー・ピア」型から「ハブ&スポーク型」にすることで、「誰がどこに相談するのが正解かわからないという、非常にこの出会いが難しい状況を解決したい」と話し、メルシャンが目指す未来を説明した。

メルシャンは日本ワインにおけるハブを目指す

 質疑応答において、一般客のメリットについて聞かれると、複数のワイナリーに参加してもらうイベントについて紹介した。東京・神田淡路町にある複合施設「ワテラス」において10社のワインが飲める「お花見マルシェ」を開催したところ、ワイナリー同士のつながりもできたし、メルシャンにとっても知見が増える、さらに購入客からダイレクトな反応が返ってくる点もメリットに挙げ、今後も提案できればよいと答えた。

美瑛ファーム代表が語るコンサル依頼の背景と今後

 メルシャンがワイナリーの初期段階から関わる初の事例として、美瑛ファームの代表取締役である西川隆博氏が登壇して現在までの経緯を紹介した。美瑛ファームは2009年に創業し、放牧酪農とチーズの製造を手掛けてきた。兵庫県のパン屋の3代目として事業を広げてきた西川氏は、東京に進出した際に「素材のよさは必ず美味しさにつなげられる」という確信が得られたことから、北海道でも完全放牧の酪農を始めた。

美瑛ファーム 代表取締役 西川隆博氏

 北海道の雪の中では「(放牧では)牛は生きていられないよ」と声を掛けられる中で、ジャージー牛・9頭だけで始めた酪農が現在では4種類・120頭まで増え、寒さで亡くなった牛は現在のところいないと話した。フランスで一番食べられているジュラのチーズを自身が経営するベーカリーでもサンドイッチに使っており、乳量も安定して生産できるようになった10年目からスタッフをフランスに修行に行かせて、チーズ作りに参入した経緯を説明した。そのチーズ「フロマージュ・ド・美瑛」は2年続けて日本の大会でグランプリを受賞し、農林水産大臣賞にも輝いたことを紹介した。

2009年から始めた「美瑛ファーム」

 その歩みの中で自身は飲めない体質なのでお酒は避けてきたが、「我々パンもやってますし、チーズもやりましたので、これはワインが必要だろう」という想いが募り、チャレンジすることを西川氏は決意した。好奇心旺盛な同氏はワイン造りを勉強する中で「馬耕やろう」「密植栽培やろう」「ブルゴーニュそのままに、ピノ・ノワールやろう」「ジュラのチーズはサヴァニャンだろう」とイメージはどんどん膨らんでいったが、苗木の選定云々といった開始段階に差し掛かってきたところ、誰かのアドバイスが必要だと感じ、人づてにメルシャンを紹介してもらったのが始まりだったと明かした。

美瑛ファームが取り入れる予定の「馬耕」と「密植栽培」

 メルシャン側からは田村氏が説明した。課題も多く、最初は担当スタッフが“断るつもり”で臨んだとし、「ワイン造りは簡単ではない」という覚悟を問うことから始まったそうだ。その中で周辺のブドウ畑を見学して検討した結果、密植も有効な栽培方法であることを見いだしたと説明した。

 現在の進捗状況としては、ドローンによる地形調査で緻密な植栽計画を立て、来月からは苗木の植え付けを開始するとしている。測量結果は今後、拡張する際にも活用する予定だ。

コストはかかるが、俯瞰して全体計画を立てることができるドローンを使った測量

 北海道ならではの課題として「根頭がん腫病」についても説明した。降雪のある地域では雪に埋まることで凍害が減るメリットもあるが、逆に保温されることで病原菌が高密度で生存する可能性が指摘されている。富良野では8%が罹患しているというデータもあり、ワイナリーとしては甚大な被害を被る可能性がある。美瑛ファームでは今回、ピノ・ノワールを1万1500本、サヴァニャンを2200本ほど植栽する予定で、コストはかかるが全部に対策を施すと説明した。

栽培地として存在感が増す北海道の現状と課題

 最終的には現在の5haを15haまで拡張して10万本近いワイナリーにしたいとし、「パン屋やレストランは事業としてすでにやっているので、ここにもレストランやオーベルジュを建て、唯一無二のここのテロワールが生かせる場所にしたいですね」と西川氏は未来を語った。

 田村氏は開業から携わる最初のコンサルティング事例として「ウチの藤野が申し上げているとおり“植える前から声をかけてほしい”という最初の事例になります。失敗してからだとそこから数年かかりますので」と話し、ワイン造りにおける150年のノウハウと人的資産があることを改めて説明した。2026年の事業規模(売上)は前年比約4倍を目指す。

2026年の売上目標