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iPhoneの着信音や音楽ソフトを手がけた元Appleの幹部が、ワイン造りで成功した物語:ブルゴーニュスタイルのXander Soren Wines

ザンダー・ソーレン(Xander Soren)氏

 米国カリフォルニア州のワイナリー「Xander Soren Wines(ザンダーソーレンワインズ)」の創設者であり、CWO(CHIEF WINE OFFICER)を務めるザンダー・ソーレン(Xander Soren)氏が来日し、メディア向けにブリーフィングを開いた。

Appleでスティーブ・ジョブズ氏と歩んだ日々

 シカゴ生まれのシカゴ育ちで「もちろん一番好きなチームはカブス」と話すソーレン氏は、ウィスコンシン州の大学を卒業後、音楽とテクノロジーの分野でキャリアをスタート。そして2001年、子供のころからファンだったというAppleへ入社、住まいを北カリフォルニアへ移すことになる。最初の仕事はiTunesの初代プロダクトマネージャーであり、入社1年目の秋には初代iPodに携わっていた。のちのiPhoneの着信音もソーレン氏によるものだという。

 Appleでの約21年間は音楽関連ソフトウェアの開発が多くを占め、その取り組みが結実したのが多くの愛好家に知られるDAWの「GarageBand」となる。2011年には、Appleの基調講演でスティーブ・ジョブズ氏と一緒にiPad版「GarageBand」の最初のバージョンをデモンストレーションしており、「私にとっても、これは本当に特別な瞬間だった」とソーレン氏は振り返る。

 そしてGarageBandやiLifeソフトウェアの公式広報担当として世界中を飛び回る日々のなか、ソーレン氏が楽しみにしていた訪問先が日本だった。ジョブズ氏と一緒に何度も日本を訪れており、「日本に来るたびに、本当に温かい日本の人々との交流も楽しみで、同時に日本料理がもう本当に世界でナンバーワン」だったと、日本への深い愛が醸成されていった。

Congrats Xander Soren on 21 years at Apple

人生の哲学「常に改善し続けること」をワインにも

 そんなソーレン氏が「せっかくカリフォルニアに住んでいるのだから、大好きな日本料理と合わせる、カリフォルニアワインを作ったら面白い趣味になるんじゃないか」と思い、2012年のヴィンテージで25ケース、およそ300本のワインを造ったことが、本ブランドのスタートとなる。

「最初はあくまで趣味でした。しかし、休暇で日本に来るたびにそのワインを持参し、日本の有名なシェフやソムリエの方々に飲んでいただき、意見を伺いました。私の人生の哲学は『常に改善し続けること』です。そうやって少しずつ改良を重ね、現在の形へ辿り着いたのです」とソーレン氏は語る。

ソーレン氏が持参した、2012年の造られた25ケースのうちの13ケース目のワイン。ちなみにエチケットにあるロゴは、日本の家紋をイメージしており、フラセラという野生の花と「Xander」の「X」をモチーフに、レコードやスピーカーといったソーレン氏の音楽への想いもデザインに織り込んでいる

日本食に合う「繊細でエレガント、酸味のあるブルゴーニュスタイル」へ

 ザンダーソーレンワインズでは、8種類のワインを年間約600~800ケースほど生産している。その最大の特徴は、日本食に合うワイン。ほかのカリフォルニアワインによくある「力強く、果実味たっぷりで、バターのような風味」ではなく、「繊細でエレガント、酸味のあるブルゴーニュスタイル」にたどり着く。

 シェフやソムリエとのコミュニケーションのなかでも、繊細な出汁の味わいやお寿司など、和食に合うのはブルゴーニュのピノ・ノワールだという意見があり、カリフォルニアのワインはパワフルすぎて、繊細な日本料理には合わない、とされている。しかし、「カリフォルニアの海沿いなど冷涼な地域であれば、酸がしっかりとあるエレガントなワインを作ることができると確信していました」とソーレン氏は話す。

ザンダーソーレンワインズのワインは「繊細でエレガント、酸味のあるブルゴーニュスタイル」

 そのために最も重要視しているのが、テロワール(畑の個性)を最大限に引き出すこと。フレンチオークの新樽の使用を最小限に抑え、人の手の介入を減らすことで、ブドウ本来のポテンシャルを輝かせるワイン造りを目指している。

 また、多くの素晴らしいワイナリーで働いてきたShalini Sekhar(シャリニ・シェイカ)氏をワイン造りのパートナーに迎えており、シェイカ氏は2015年のサンフランシスコ・インターナショナル・ワイン・コンペティションで、26か国から出品されたワインから、「Best Winemaker(最優秀ワインメーカー)」に選ばれている。

フレンチオークの新樽の使用を最小限に抑え、テロワールを最大限に引き出すことを大切にしている

 そしてザンダーソーレンワインズのワインは、必ず「5年間の瓶熟成」を経てからリリースするという、贅沢な手順を経ている。彼らが言うこの「忍耐」こそが、リリース直後から料理に寄り添い、さらに10年以上の熟成に耐えうる調和のとれた構造を生み出すとしている。

 こうして造られるザンダーソーレンワインズのワインたちは、鮨 さいとう、鮨 さかい、鮨mといった有名店や、パークハイアット東京、アマン京都などの一流ホテルで採用されている。

有名店や一流ホテルで多くの採用実績を誇る

 ブリーフィングの最後に試飲の場が設けられた。いずれももしもブラインドで飲んでいたらアメリカのワインとは気付かないほど上品で繊細なものだった。「2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト」はまさにシャブリのようにミネラル感のあるシャープな白で、貝類や白身魚に合いそう。「2024 ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ セントラルコースト」はどちらかといえば少しバターやトロピカルフルーツのような印象があるが、あくまで前者と比べればというもので、とても繊細ななかで感じるフルーティさになっている。親しみやすさはこちらの方があるかもしれない。

 ピノ・ノワールもとてもエレガント。赤ワインなのに鮨のお店での採用例が多いことも納得の、存在感はあるけど尖っていない高い完成度を感じた。「私たちが造ることができる最高のワイン」とソーレン氏が紹介する「2021 ルデオン ピノ・ノワール セントラルコースト」は圧巻。複雑で深みがあり、でもそれが“難しさ”にはならず、日本料理にも寄り添う“優しさ”になっている。いずれも手間暇を惜しまず雑味を排除していく、贅沢な工程を経たワインだと感じた。

2021 ルデオン ピノ・ノワール セントラルコースト

価格: 3万円前後(125ケース限定)
特徴: ブランドのフラッグシップ・キュヴェ。1970年代前半に植樹された3つの象徴的な畑のブドウを緻密にブレンドし、力強さと気品を両立させている

2021 ルデオン ピノ・ノワール セントラルコースト

2021 ユーキ・ヴィンヤード ピノ・ノワール ウエストソノマコースト

価格: 1万6000円前後(65ケース限定)
特徴: 日本人醸造家、フリーマン昭子氏が管理する著名な「オキシデンタル・ヴィンヤード」のブドウを使用。海風の影響を受けた緊張感のある仕上がりという

2021 YUKI ウェスト・ソノマ・コースト

2022 ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト

価格: 9000円前後(85ケース限定)
特徴: ソノマ・コーストにある2つの銘醸畑をブレンド。海岸沿いのピノ・ノワールならではの純粋なブラックチェリーのアロマが拡がり、爽やかな酸、質感のあるタンニン、控えめなアルコール度数によって、気軽に楽しめるスタイルになっている
※英国のワイン専門誌「Decanter(デキャンタ)」で96点

2022 ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト

2020 オリーヴェ・レーン ロシアン・リヴァー・ヴァレー

価格: 1万6000円前後
※英国のワイン専門誌「Decanter(デキャンタ)」で96点

2020 オリーヴェ・レーン ロシアン・リヴァー・ヴァレー

2025 ザンダー ロゼ ピノ・ノワール

価格: 9000円前後(70ケース限定)
特徴: 2024年に少量生産を開始したロゼワインが今春も登場。セニエ法とダイレクトプレス法を組み合わせたロゼで、爽やかさを保ちながらも豊かな風味を兼ね備えているという

2025 ザンダー ロゼ ピノ・ノワール

ザンダーソーレンワインズ初のシャルドネが登場

 これまでピノ・ノワールに専念してきた同社が、いよいよ初のシャルドネをリリース。これもやはりブルゴーニュスタイルで、複数の畑のブレンドではなく、サンタ・リタ・ヒルズにある単一の素晴らしい畑から造られている。

「2024 ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ セントラルコースト」(左)と「2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト」(右)

2024 ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ セントラルコースト

価格: 9000円前後
特徴: ムルソーのようなテクスチャーとマコネの果実味にインスパイアされた、洗練されたスタイル 。熱帯の果実味と抑制されたオークの調和が魅力

2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト

価格: 1万6000円前後
特徴: 1983年植樹の歴史的銘醸地「エル・ハバリ・ヴィンヤード」のブドウを使用。火打石や潮風を思わせるミネラル感が際立つ、シャブリスタイルのワインにインスパイアされた極めて希少な1本

江戸前鮨とザンダー・ソーレン氏のワインのマリアージュを堪能する

ザンダー・ソーレン氏の解説を聞きながら、江戸前鮨とワインのペアリングを楽しんだ

 後日、東京・南青山にある鮨店「鮨m」において、ザンダーソーレンワインズのワインと日本料理のペアリングを体験する会が開かれた。「鮨m」の「m」は「mariage(マリアージュ)」のことで、江戸前鮨とワインや日本酒、あるいは鮨とフランス料理といった、ペアリング・融合・調和を楽しむことができる鮨店となっている。

鮨職人、ソムリエ、フレンチシェフが織りなす料理とお酒を楽しめる「鮨m」

2025 ザンダー ロゼ ピノ・ノワール

合わせた料理: 鹿児島 アオリイカ・フランス キャビア

2025 ザンダー ロゼ ピノ・ノワール
鹿児島 アオリイカ・フランス キャビア

 香ばしく仕上げたアオリイカとキャビアというカジュアルで贅沢な料理からスタート。イカのゲソでダシをとったソースにキャビアの塩味が加わった旨みの層を、ロゼの爽やかさと豊かさの二面性が解きほぐしてくれて、最初から「うまい」と声を上げてしまう。

2024 ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ セントラルコースト
2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト

合わせた料理: 握り 青森 大間 平目/茨城 日立 春子鯛/宮城 塩竃 本鮪 中トロ

2024 ザンダー シャルドネ サンタ・バーバラ・カウンティ セントラルコーストと2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト
青森 大間 平目
茨城 日立 春子鯛
宮城 塩竃 本鮪 中トロ

 次はシャブリタイプのHABARIと、いい意味でちょっとアメリカのワインっぽさのあるザンダー シャルドネを、いよいよ握りと合わせる。庶民&ワイン初心者の記者は「お寿司(この日は鮨だけど)といったらシャルドネだよね」という安心鉄板の組み合わせだ。やはり淡泊な平目から…と思ったら、きめ細やかさの中にしっかり旨みがあり、HABARIとの繊細なキャラ同士の隙間と隙間に旨みがはまっていくのを堪能する。

 階段を一段上るように次は春子鯛へ。平目のあとで発見しやすい少しオイリーな旨みを、HABARIのミネラル感が余裕で受けとめてくれる。ああ、控えめな実力者が見せる懐の深さ。このあたりは、樽香ドーン!タイプのチリシャルでは見えない景色だなとしみじみ。そして中ボスの中トロは、ザンダー シャルドネのフルーティさと少しの樽香が、トロの旨みとオイリーさをきれいに際立たせ、そして洗い流してくれる(いえ、格好付けてる場合じゃなく、本当においしいです)。

2022 ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト

合わせた料理: 愛知 平貝・フランス ホワイトアスパラガス

2022 ザンダー ピノ・ノワール ソノマ・コースト
愛知 平貝・フランス ホワイトアスパラガス
スモークした状態からのサービス

 ここでスモークの気配を感じながらいただくお野菜と平貝。野菜の苦み、平貝の旨み、まだ残るスモーキーさに、ワインのフレッシュな果実味がとても合う。

2020 オリーヴェ・レーン ロシアン・リヴァー・ヴァレー

合わせた料理: 握り 島根 出雲 鰯/島根 大田 赤睦/青森 陸奥 雲丹

2020 オリーヴェ・レーン ロシアン・リヴァー・ヴァレー
島根 出雲 鰯
島根 大田 赤睦
青森 陸奥 雲丹
箱雲丹です!

 ここから赤ワインと鮨のマリアージュが始まる。しかも青魚の鰯から。でも今夜は当然合ってしまう。青魚の臭みが云々なんて野暮なことを言う隙はなく、ただただきれいに旨みだけを感じる鰯で、そのオイリーさの融点を、このピノ・ノワールが知っていたかのようにぴたりと合わせる。これは「白身のトロ」と呼ばれるのどぐろの脂のりのよさでも同じことを感じた。

 そして豊洲市場のその日の“一番雲丹”が登場。箱雲丹のお披露目で、圧倒的な存在感にテンションが上がり、そして期待を裏切らないきれいな味が、ピノ・ノワールとも合ってしまう。ザンダーソーレンワインズ全般に言えることだが、エレガントさ、繊細さが、日本料理の繊細さと抜群に相性がよい。

2024 HABARI(葉張)シャルドネ サンタ・リタ・ヒルズ セントラルコースト

合わせた料理: 青森 桜鱒・静岡 桜海老

青森 桜鱒・静岡 桜海老

 ここで、火を通した魚に対してHABARIが再び登場。海老の甘みとミソのコクを感じるソースにシャルドネが合う。ちょっとソーヴィニヨン・ブランのようなフレッシュさが、桜海老の香りをさらにブワッと立ちのぼらせてくれるよう。

2021 ユーキ・ヴィンヤード ピノ・ノワール ウエストソノマコースト

合わせた料理: 握り 千葉 銚子 金目鯛/宮城 塩竃 本鮪 赤身/宮城 塩竃 本鮪 大トロ

千葉 銚子 金目鯛
宮城 塩竃 本鮪 赤身
宮城 塩竃 本鮪 大トロ

 続いての握りは「釣り金目」と呼ばれる、1匹ずつ釣られた金目鯛。網と違い長時間の大きなストレスを受けずに捕られることで、身が固まりにくいとされていて、なるほどねっとりとした身の旨みがジューシーなピノ・ノワールと合う。塩竃の本鮪は赤身と大トロが登場。赤身はややヅケにしているが、鉄分・酸味と赤ワインの酸味がフィットしている。そしてこれだけの繊細さを見せているのに、大トロの脂に負けない骨格があり、でも圧倒もしないワインの強さと優しさがすごい。

2021 ザンダー ピノ・ノワール サンタ・バーバラ・カウンティ

合わせた料理: 握り 千葉 富津 穴子

千葉 富津 穴子

 握りの最後は富津の穴子。個人的に穴子は白ワインと合わせても、場合によっては日本酒と合わせても最後に臭みが立ってしまう難しい相手(好きなんだけど)という印象だが、ここまでくると安心と期待しかない。しっかりめの果実味のあるワインが、骨からダシをとったというタレをまとった穴子を受けとめてくれる。飲み込んだあとも、何も雑味が昇ってこず(お見事です)ただただふっくらとした穴子の食感、香ばしさ、旨みを堪能できた。ここまでジューシーだと焼鳥などとも合わせてみたい気持ちになった。

2021 ルデオン ピノ・ノワール セントラルコースト
2012 ピノ・ノワール セントラルコースト

合わせた料理: 宮城 仙台牛・高知 花山椒

宮城 仙台牛・高知 花山椒
シグネチャーワインの「ルデオン」や、本ブランドのスタートである2012年ヴィンテージのピノ・ノワールと合わせる

 いよいよラスボス、ザンダーソーレンワインズのシグネチャー「ルデオン」と仙台牛が登場する。「牛肉のステーキと合わせるならカベルネ・ソーヴィニヨン……」なんて今夜は言うはずもない。カベルネ・ソーヴィニヨンの渋みを必要としない優れた和牛の低い融点により、情報量の多いおいしさを、フラグシップのワインが寄り添い、私たちに教えてくれる。BBQに安うまチリカベを合わせるのとはあまりに隔絶した、和の静謐の中で、和牛のおいしさとじっくり向き合うことができるようで、結局最後の最後まで「うまい」と言い続けるしかなかった。

 ザンダー・ソーレン氏が語る「繊細な日本料理に合う繊細なワイン」を堪能する夜となった。それはただ和の食材やダシ、味付けを邪魔しないワインではなく、和食の緻密さや繊細さに気付かせてくれるガイドのようでいて、でも脇役にはならない存在感もあった。iPhoneで撮影した写真を見ていて、気になる箇所を拡大して、拡大して、拡大して…それでも画像が粗くならないような「どこまで情報が詰まっているんだ!」と感嘆するような、とんでもなく手間暇をかけたワインの数々だった。国内の有名な鮨屋やホテルなどで味わうことができるので、ぜひザンダーソーレンワインズのWebサイトをチェックして、体感してみてほしい。